第14話 ………勘?

 完全に、今の『やったか⁉︎』はフラグだったな。

「………ッ!やっぱりキミは凄いよ!」

と、そんな事を考えていると隣のキリが目の前のブラックタイガーを睨みつけながら言う。

 そうだ。まだブラックタイガーは生きているのだ。手負いの獣ほど恐ろしい物は無いとも言うし、まだ油断は禁物だ。

 ブラックタイガーは、先ほどの死角からの攻撃に恐れてか、周囲を見回している。潛は草むらに潜ませているので、見つかる事は無いはずだ。

「僕もせめて、剣があれば……ッ!」

 その言葉を聞いて俺は、近くの木に手を触れる。

 木が潰れて、空気の抜けるような音を立てて、圧縮されていく。

 俺の手に残ったのは先端が針みたく尖った異形な、2本の木の塊。

「キリ!コイツを使え!多少不恰好だが木刀のつもりだ。強度は保証する!」

「ッ!………か、感謝する!囮になるくらいしかできないかもしれないけど、役に立って見せるよ!」

 おそらく、どうやってそんな芸当が出来たのか疑問に思ったのだろう。一瞬の間があったが、すぐに、今はその時では無いと判断して木刀を受け取った。

 キリは覚悟を決めたような面持ちで、2本の木刀を構える。

 俺はキリの言葉を否定しなかった。

 俺がレベルの低いキリを守りながら戦うとなるとほぼ確実にブラックタイガーには勝てない。食い殺されて終了だ。そしてそれ即ち、キリの死でもある。

 今、最も2人の生存確率が高い手段は、2人で戦う事だと考えたのだ。

 今の俺は文字通り、猫の手も借りたいような状態だからな。


 キリは無言でブラックタイガーに向かって走り出した。あっという間にブラックタイガーの元に辿り着いたキリは、木刀を突き刺すように振り上げる。が、圧倒的な体格の差だろう。軽々と攻撃を避けたブラックタイガーは、カウンターで右腕を振り下ろした。

「潛!」

潛がブラックタイガーの頬に体当たりをかました。

「グルルルルァ゛ァ」

その一撃で、ブラックタイガーは体勢を崩す。

攻撃を停止させられたのは良かったのだが、標的が潛に向いたようだ。

 ブラックタイガーが潛に向かって漆黒の腕を振るう。それを交わした潛は魔力弾を放つ。そこまでMPが込められていなかったから牽制の威力に留まったが、十分、キリの体勢を整えるまでの時間は稼げたはずだ。

「キリ!」

「了解っ!」

ブラックタイガーの背後にいたキリがブラックタイガーの右足の腱を切断した。

 咄嗟に切るところが腱だなんて、恐ろしい子や。

 

 だがそれで終わりじゃあない。

「―――潛!」

たっぷりと魔力を溜めた魔力弾。MPにして約60の魔力が円錐型に纏まり、音を立て始める。


「―――撃て!」


―――ボッシュンッッ‼︎


発射音と共に、抉れる肉骨の音が鳴った。

 音が鳴り止んだと共に、半身となったブラックタイガーは地に崩れ落ちた。


「倒した……のかな……?」

「ああ………やったな」




 しばらくして―――

「いやぁ、攻撃が避けられた時は死を覚悟したよ。少しは役に立てたでしょ。」

「少し所か大金星だ。もとはと言えば俺がフラグ的なモノを立てたのも悪かった。」

というか、キリが思いの外優秀すぎて、なんかあっさりと倒せたんだよな。今では、足手纏いはフラグを立てた俺な気がしてきたくらいだ。

「フラグ…?」

「こっちの話だ。忘れてくれ。」

「というか、この木刀はなんだい?僕にはキミが触れた木が潰されてくように見えたけど。」

「俺、《傀儡師》のスキルの権能だ。触れたモノを変形、圧縮する事が出来る。人形の部品を作る為の能力だろうが、人形作成以外の用途でも行使できるようだな。」

「なるほど。コレが剣だと言うのはどうかと思うけど」

そう言ってキリは木刀を撫でる。先端が尖っただけの木の棒。歪だ。

「うるせぇ!咄嗟に作ったから、仕方ないだろ!」

「あっはは!冗談さ。この木刀のおかげで勝てたのだから、そんな事言わないよ。」

 ブラックタイガーを倒してからしばらくして、俺たちは勝利の余韻に浸っていた。ブラックタイガーの素材は俺が剥ぎ取っておいた。刃物は、《人形作成》で作った石包丁で代用した。

 緊張から解き放たれたからか、キリの喋りはいつもより饒舌だった。

「あ!そう言えばレベルが上がっていたよ。ブラックタイガーを倒したからだろうね。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆

《キリ•レイクス》 Lv.5→26

年齢:10

職業:剣豪

スキル:二刀流 弱点看破 生活魔法

HP :100/102→469

MP :110/110→319

称号:才媛

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 これがキリのステータスだ。レベルは21も上がっていた。まあ、ブラックタイガーはキリにとって圧倒的強者だったわけだからこの値にも頷ける。

 みたところ、MPに比べてHPの上昇値が大きいな。というか、既に俺のHPの値に届きそうとかどう言う事やねん。

「かなり上がっているみたいだな。」

「レベルが上がったおかげか、以前に比べて剣が降りやすくなったんだ。」


 俺も上がっていたが、相変わらずMPの値が急上昇しているだけだった。新たなスキルとか解放したいんだけど、今のところそんな兆しはない。条件が足りないのか、はたまたレベルが不足しているか。原因は分からないが、いつか解放したいとは思っている。


 『素材もゲットしたし、そろそろ帰るか。』と言おうとした俺は気づく。

 俺たちの格好が血まみれであることに。

「これじゃあ俺たちが教会の外に出ていた事がバレてしまうな……。」

「心配される方が先だと思うけどね。………けど大丈夫!いくよ、《生活魔法》〝浄化〟!」

 すると、俺たちにこべり付いていた血液がシュワシュワと音を立てて消えて行く。なるほど。《生活魔法》ってこう言うことね。そのあと約1分くらいで俺たちは元の清さに戻った。

「なかなかに使い勝手が良さそうな魔法だけど、《生活魔法》は珍しい魔法なのか?」

「うーん。そんなことは無いんじゃないかな?事実、私もシスターレイナが使っている所を見て覚えた訳だし、ある程度一般的になんだと思うよ。」

「そうなのか。……と言うか、見て習得出来るとかマジ天才だな。」

「そんなことないでしょ!キミだって、その《魔力弾》だっけ?自分で作ったんでしょ?そっちの方が凄いと思うなぁ〜。」

「まあな。ある意味偉業といえば偉業だろうな。でもこのことは今後公表するつもりは無いし………ってなんでお前はさも当然のように、俺が魔法を開発したことを言い当ててるんだよ!」

「………勘?」

「こえーよ!」

「いやー、第一私、そんな魔法知らないし。透明な魔法とか、この世にないんじゃ無い?」

「え、無いのか⁉︎」

無属性はゲームのでも基本中の基本属性だった気がする。なんで作らないのだろうか?何より他属性よりも使い勝手が圧倒的に良い。

「まあ、私の知識の範囲内では、だよ?でも少なくとも私は基本の火、水、土、風の四属性と、希少属性の闇と光、それらの複合属性の氷、雷、木…………くらいしか知らないな。」

「へぇ〜。ここら辺はマジでゲームなんだよなぁ、と言うか、案外属性少ないな。」



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