第六話 久しぶりのお父様

 ついに、第一次選考の結果発表!

 私達のもとに合否書類が届いた。書類をはさみで開ける。紫色の封筒が私の心に不安を感じさせた。…もしかして…不合格…?そんな気分になる。

 今日はアヤちゃんと水井先輩さんも静かだ。そのせいで余計緊張してしまう。

 「開けます」

――ペラッ

 矢部部長さんが紙を開けた。私は手を重ね合わせる。

 ドクンッ。心臓の音。

 「っ……!」

 矢部部長さんが息を飲む。結果は……?私は結果が待てず、紙をのぞき込んだ。

 『おめでとうございます。厳選なる審査の結果、合格となりました』

 「うっしゃーー!」

 「やった~~~!」

 水井先輩さんとアヤちゃんが拍手喝采!

 「よっし!」

 それに加えて鈴木さんのガッツポーズ。

 「本当……?」

 涙ぐむ矢部部長さん。

 私も「本当?」と言いそうになる。

 第一次選考合格……!?現実……?

 「っ…………」

 矢部部長さんが泣いている。きっちりとめている前髪がクシャッと崩れた。私ももらい泣きしそうになってくる。私はあわててハンカチを取り出し、涙をぬぐいとった。

 「よかったね~」

 「次はプレゼンテーション……プレゼンだぜっ!!」

 「その呼び方やめてください……」

 「やめてあげなさい、悠斗。これからプレゼンの説明をしていきたいと思います」

 矢部部長さんの大きな声に肩が震える。眼鏡のレンズに落ちた涙をティッシュでふきながら言った。

 「第二次選考―プレゼンの話をするわ」

 書類を見ながら矢部部長さんは話し続ける。いかにも真剣な目線で、息が詰まった。

 「日時は八月四日、午後四時から。ちょうど夏休みが始まって一週間ね。応募は六十校ぐらいあって、現在で五十校。そこからさらに絞られるみたいね。プレゼンで半数以上が落とされるわ。頑張りましょう!」

 「オッケー、まるまる」

 「分かりました~」

 「了解です」

 「去年は第二次選考で落ちたよ~」

 水井先輩さん部屋の空気がいっきに凍り付く。

 「ご、ごめんね!悠斗、雰囲気をくずそうとしたわけじゃないの。ただ、今回は金賞を取りたいって話よ」

 「俺すごい悔しかった!!だから、今回は絶対金賞とりたい……!いや、とる!」

 「プレゼン、ぜひ一年生もきてくれない?」

 「もちろん行きます!」

 鈴木さんがガバリと音をたて、立ち上がる。鈴木さんの目はヤルキで燃えていた。本気で金賞を取りたい。私もその気持ちで同じだ。……でも…。

 「アヤも……!」

 アヤちゃんがニカッと笑った。その姿に、私の心が揺れる。

 私はホワイトフライの後継ぎ。それは分かっている。だからきっとその日も予定がいっぱいある。

 「ありがとう!良かった……。………白鳥さんは……?」

 矢部部長さんの瞳がこちらを向く。やっぱり……。

 「定員は十五人だから、心配しないで。……どう?いけそう?」

 真剣なまなざしに、一瞬思考が止まった。

 「円菜さん?」

 「マドッチ?」

 「……白鳥……?」

 「円菜、無理はしなくて良いよ?」

 息が鉛みたいに重い。夏休みにお出かけ。学校以外で友達と会うのをお父様は嫌っている。

 「…………無理…………かも……。お父様………じゃなくて…………お父さんに許可をとらなきゃ……」

 「そっか~しゃーないな」

 気の抜けたように皆が肩を落とす。その姿が茨《とげのように、心に傷をつけた。行きたい……。胸がしめつけられる。

 「でも、まだ可能性アリ、蟻~!蟻がお菓子を運ぶ~!でしょ?」

 「?……一応……」

 「なら、よろしくお願い……できないかしら?」

 水井先輩さんの自分世界マイワールドをかばうように矢部先輩さんが言う。矢部部長が手を合わせた。それに加えて、鈴木さんがにらんできた。鈴木さんの『絶対許可とってこい』という圧に負けて、私は弱々しく「はい」と答えた


〇◇◯◇


 執事の明日香さんにお願いして、お父様と話すことになった。

 いつもは通らない階段や廊下。コツコツと私のヒールの音だけが、むなしく響く。不意に昨日の言葉が頭に浮かび上がった。

――「もちろん行きます!」

――「アヤも……!」

 心が揺さぶられる。鈴木さんの積極的な声。アヤちゃんの笑顔。五人でつかみ取った、第二次選考。それなのに、私は行けないの……?

 「イヤ……」

 思わず心の声が漏れ出た。

 なんとかしてでも、お父様に許可を取らなきゃ。

 重々しい扉が目に入る。

――コンコン

 「円菜……ですわ」

 「ああ入れ」

 低くてトゲトゲしい声が帰ってきた。お父様の声だ。扉を開けると、お父様が特注品の椅子に座っていた。

 「久しぶりだな、円菜」

 「ええ。御目おめに書かれて光栄ですわ」

 お父様と会うのは一週間ぶり。いつもより堂々として見え、で私は緊張がより高まるのを感じた。

 「腰かけたまえ」

 うながされ、私は椅子に座る。

 「話とはなんだ」

 闘いのゴングが鳴った。ここからが、正念場……!

 「八月四日の四時から用事があってお出かけしたいのですが……いいでしょうか?」

  「……残念だがその日は、会食がある。円菜も出席する予定だと、スケジュール帳に書いてあったと思うぞ。遊んでいる暇はない。」

 空気がピキンと張り詰めた。

 場所を聞いてきたから、少し期待してしまっていた。「いいぞ」と言ってくれることを。

 「………………」

 何も言えない。言い返したい。でも、私は顔を青色に染めてうつむくことしか出来なた。

 「っ……、申し訳ございませんでした」

 遊ぶんじゃない、コンテスト。そう言いたい。

 「ああ。出ていけ」

 いつものセリフが飛んでくる。

 私の今の状態は、矢をはじく盾をもっていない状態。言い返そう、なんて思ってお父様に会ったけど、現実は甘くなかった。私はお父様に背を向けた。唇が震える。私はまだお父様に染められた色で生きている。私の顔には、一筋の線が入っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る