第五話 ファッション部の一員

 ある日、事件が起った。私はアヤちゃんと一緒に下駄箱へ向かっていた。

 「今日の授業疲れた!地理何言ってるの~!あー。全部手芸の授業にしてほしいな~!」

 「そう?地理好きだよ?」

 「円菜、すごーい!」

 アヤちゃんとのたわいのない会話。それが、私の気分を晴れやかにする。

 「あれ?」

 アヤちゃんが首をかしげた。

 「なにこれ?」

 アヤちゃんは下駄箱を見つめた。

 「これ……!」

 紙切れに、『ファッション部やめろ!』と書いてある。どうやらアヤちゃんの下駄箱に入っていたみたい。いじめだ……!

 「きっと凪咲様って言ってきた人達だよ!なんでこんなことを……」

 あっ……!私の所にも、紙切れが入っている。『やめろ!!』という乱暴な字。読めるか読めないかの境目の字。小学生以来のいじめだ。顔がなすのように紫色に染まる。

 「円菜、これ、先生に言おう!」

 アヤちゃんが歯を食いしばる。

 「駄目!」

 とっさに言葉を放つ。

 昔、私が先生に言ったらますますいじめられてしまった、という出来事があった。同じことになってしまうかもしれない。…………ほとんどが私の過去を知らない場所でまた同じことを繰り返したくない。

 「そのほうが余計にいじめられそうだから……。アヤちゃんのことは言っていいけど、私のことは言わないで」

 「そっか~確かにそうだね。アヤ、言わない。……でも、アヤは良いけど、……円菜はもっと辛いでしょ…?」

 「うん……大丈夫だよ」

 私が口角をあげる。

 するとなぜか、アヤちゃんは心配そうな目をしていた。


〇◇◯◇


 「よっし!あと二週間よ!張り切るわよ。」

 あじさいがもう学校の花壇に咲かなくなった。

 私達ファッション部は腕を組み、考える。テーマ、設定、テイストはばっちり。スカートスタイルということも決まった。

 「お嬢様ねー」

 「うーん、どうするか悩む~悩む~」

 「そうですね…」

 「う~ん。アヤ、なんか眠くなってきた~」

 設定は『日本のお嬢様』なんだ。アヤちゃんの出した案が「いい!」ということになって……。私は少し気持ちが落ち込む。部活にまで、影響しちゃうなんて思いもしなかった。小学生の時もクラブでも『お嬢様円菜様』と言われていたんだ。

 「クローバーとシロツメクサ」

 「でもそれじゃあ、お嬢様っぽくない~!」

 「だから…スカートをお嬢様っぽく!」

 「円菜!」

 「マドッチ!」

 「白鳥さん!」

 アヤちゃんと矢部部長さん、水井先輩さんが私に詰め寄る。きっと、もっとお嬢様の雰囲気を出したいんだ。

 それでたどり着いたのが……私なんだね。

 「白いブラウスにクローバーとシロツメクサをあしらうんやけど、お嬢様っぽくないんよ!いつもスカートどんなの!?どんなの、どんなの、丼なの、かつ丼なの!かつ丼おいしー!」

 「白鳥さんはどんなスカートはいてる?」

 水井先輩さんが自分の世界に入ってしまったので、矢部部長さんが尋ねる。

 「…………分かりません……」

 「「「え~~~~!」」」

 三人に不満がられ、私はたじろく。三人とも悪気はない、はず。でも、文句を言われるのは怖い……。

 「調べたら?」

 鈴木さんが小声でつぶやく。

 私はハッとする。いつもはツーンとしている鈴木さんが、助け船を……!

 「分かりました、調べます!!」


〇◇◯◇


 「「「「「完成っ!」」」」」

 私や鈴木さんまでもが、声を張り上げる。

 ……ついに、完成したんだ!!プリーツスカート(山折谷折りの折りひだがあるスカート)を使うことになった。すそには、ふんわり広がるレース。”チュール”をつけたんだ。

 「もう、金賞決定!」

 そう矢部部長さんは喜んでいる。自分が考案した雪のように真っ白なブラウスが好きみたい。鈴木さんもアヤちゃんもにんまり。こんなに自信があるのに、落ちてしまったら……。そう考える自分を奮い立たせるために、私はこぶしを突き上げた。

 私は、ファッション部の一員として、皆の役に立てたかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る