第四話 ファッション部はハード!!

「入部してくれてありがとう!」

 矢部部長さんが言う。

 「まさかファッション部に『三人』も入ってくれるとはなぁー」

 入部者は私とアヤちゃんだけではなかった。

 普通なら喜んでいるところだけど、私は少しどんより。 アヤちゃんは喜んでいるけど。

 もう一人の入部者は、鈴木和希すずきかずきさん。私と小学生の頃から同じクラスの腐れ縁の鈴木さん。髪の毛に少し寝癖がある。目の下に隈があるので、夜更かししたのかもしれない。いじめられていた過去を唯一知っている男の子。

 今も席が隣。出席番号も一つ違い。必要なこと以外喋らない、無口な人。でも、もしかしたら私の過去を喋るかもしれない。 私は制服の裾をつかむ。

 まさか、部活まで一緒になるとは思いもしなかった。入りたい部活まで被るなんて…。私は肩を落とした。

 「じゃあ、一応自己紹介をしましょうか。私は部長の矢部心春です。怪談話が好きです。よろしくね」

 かいだん……階段だよね……!?階段の段の数を数えるのが趣味なのかな……?

 「水井悠斗!よろしゅ~!」

 「佐野綾で~す。ファッションについてあまり知らないけどよろしくね~」

 「白鳥円菜です」

 「鈴木和希です……」

 鈴木さんの言葉が終わると、沈黙が流れた。空気がはりつめる。気まずいくなり、私は部室の外を向いた。

 「まあ、席座って」

 と言う矢部部長さんの言葉に救われる。

 でも、席の隣は鈴木さん。鈴木さんの体から『近寄るな』という冷気がふつふつと出ている。私はよくこういう人に会うけれど、これはただ人と関わるのが少ないだけだ。きっと大丈夫。

 「改めて、ファッション部の説明ね」

 ファッション部は中学生ファッションコンテスト、『ドリームカラーファッション』に出場するんだ。

 六月までに服をデザインさせて第一次選考。第一次選考に通ったら、八月にプレゼン。そこで二十組ぐらいに選ばれ十月に、決勝!!金賞を受賞したら、商品化されるんだって。それにしても、選考多いね。鈴木さんは「選考多いのは当たり前だ」というようにうなずいた。もともとコンテストを知ってる……のかな。

 アヤちゃんは……あくびをして……い、る。

 「ふわぁぁ――」

 こんなことアヤちゃんがするわけない…はず……。

 幻覚だよね……!?

 「デザインするぜ~!これがドリカラのチ・ラ・シ!今年のテーマは……」

 ドリームカラーファッションのことを略するとドリカラと言うらしい。

 にしても、テーマなんてあるんだ…。

 「花!?」

 アヤちゃんが声をあげる。

 すると矢部部長さんが目を見張る。

 「へぇー、随分おおまかだね、悠斗」

 「うん!ちなみに前回のテーマは『赤ずきん』だったよぉ~!赤といえば、リンゴ~美味しいよね~。アーヤ」

 「うーん。アヤはリンゴ苦手~」

 「え~~~!!」

 (ごめんなさいね。悠斗の自分世界マイワールドが広がって)

 矢部部長さんが、私にこっそり話しかけてきた。

 (自分世界マイワールドですか?)

 (ええ。変な方向に話がずれる、つまり自分の世界に入るってこと)

 (なるほど…)

 私には持っていない自分の世界。……これから作っていきたい私の世界。

 「花?どういうこと~?」

 アヤちゃんと水井先輩さんを白けた目で見ながら、鈴木さんが尋ねる。

 「うん、花に関係していれば何でもいいみたい。色々な個性が出て、審査しやすいのかな」

 「お花か~いいねー」

 「本当?アヤちゃんもそう思うの!?」

 「うん!アヤ、チューリップが好きなんだ~!」

 四人は楽しそうに会話している。そこに一人、私が取り残される。もう”ちゃん”付けしてる……。水井先輩さんなんてあだ名で呼んでいる。なんだか心が苦しい。

  私もあだ名で呼んでみた方が良いのかな?でも口が震えて、呼ぶことが出来ない。

 「では、具体的なテーマを決めます。ホワイトボードを見ててね」

 矢部部長さんが眼鏡をかけ直す。サラサラと奇麗な字がホワイトボードに書かれていく。

 「これから決めることは作品の”テーマ”。それから、”設定”。どんな人がこの服を着るか。そして”花の種類”。”花の量”。花をいっぱい使うのもいいし、一つでもいいよね。スカートとズボンどちらにするか。後はテイスト」

 えええええええっ!?キメルコトオオクナイデスカ?しかも『テイスト』というアラビア語も出てきてますよね。ファッション部、楽しそうだと思っていたけど、ドリカラに応募するとなると、大変……!?

 「第一次選考で落ちたら元も子もないわよ。頑張りましょう!」

 「「お~~~!」」

 アヤちゃんと水井先輩さんの声が部室に響いた。


〇◇◯◇


 それから毎週月曜日は大張り切り!!

 服のテーマは「お花畑で遊ぶ女の子」。おとぎ話でありそうな、お花を摘んでいるというイメージなんだ。上手にできるかな…。窓の向こうの空に雲がかかっている。

 そして、テイストは「ガーリー」。可愛らしいってこと……らしい…。

 「うーん。次は設定ね」

 「え?設定とテーマって何が違うの~?」

 それは私も同感。聞いたこと無い言葉だ。

 「テーマは図工の作品で言う題名よ。設定はもっと奥深いこと。どんな町に住んでる?日本の田舎でもいいし、ロンドンでもいい。そして、性格、とかね」

 「なるほど~分かった!」

 「白鳥さんも分かった?」

 「あっ、はい」

 分かっていないの、矢部部長さんにばれてた!?ごめんなさい……。そう思い一礼をする。

 すると鈴木さんが私をにらんだ。 まるで、

 「なんでそれくらい分からない」

 と訴えているみたい。オオカミみたいで、ぞっとする。鈴木さんは元々ドリカラのこと知ってたのかな。

 「まあまあ、カズキング!これからっしょ~。設定決めるぜ~!」

 「…………!」

 カズキングと呼ばれ、鈴木さんの眉がピクリと動いた。

 怒った時に、鈴木さんがする仕草だ。

 「鈴木さん。どんなところ住んでいる少女にしたい?」

 「そうですね…。パリの街とかですかね」

 「分かった。アヤちゃんは?」

 「日本のお嬢様!家の庭で遊んでいるっっ。。円菜がいるから再現しやすいよ~!」

 「白鳥さん?」 「マドッチ??」

 「うん、円菜は~大企業『ホワイトフライ』の社長令嬢なんだ~。すっごくお金持ち!」

 私は目を伏せる。言わないでほしかった。鈴木さんとアヤちゃんが知っているのはどうしてもウワサで耳に入るからしょうがない。けれど、部活にまで広げるのは……。

 「あ―――ウワサで聞いたわ。でもそれが白鳥さんなんて初めて知ったわ!」

 「あ!だから、その、えっと……と思ったんやな。」

 「それを言うなら!というか、白鳥さんがあの大企業の社長令嬢だったなんて!」

 私の方を見て、アヤちゃんはニコニコしている。アヤちゃんは何で私のことをみんなに伝えたんだろう。

 ……私らしさ、を伝えてくれたのかな?

 「いつも休日とか着ている服どんなの!?」

 さっとスケッチブックを渡す矢部部長さん。現実に引き戻された。

 いつも着ている服……考えたこと無かった。

 「ブチョー、近すぎて怖い!!怖い!スケアリ―!イッツスケアリ―!!」

 私は矢部部長さんに渡されたスケッチブックをおずおずと受け取った。


〇◇◯◇


 「あれ!?心春来ないな~?」

 水井先輩さんが叫ぶ。

 部活が始まって二十分。矢部先輩さんが部室に来ない。今日お休みでもないみたい。

 「アヤ、教室見てくる~」

 「あ、私も!」

 「よろしくお願いします」

 「三年二組だからね」

 「「はい!」」

 私はアヤちゃんと教室を出る。

 急いで、クラスへ向かう。

 「ねぇ円菜、三年生のクラスはあまり行かない方が良いって聞くから、気をつけてね。今はアヤと一緒だから大丈夫だけど、……」

 「う、うん。分かったよ」

 アヤちゃんの言葉におずおずうなずく。悲しんでいるような表情に私は何を言えば良いか分からなかった。

 三年二組…二組……。あった!

 「ここだよね~!?」

 「うん、そうだと思う」

 他のクラスに行くのは、初めて。

 少し、緊張していた。すると、騒ぎ声が聞こえた。

 「クスクスクスクス」

 「そっち、押さえてぇー」

 「おっけぇだよぉ」

 ?押さえる……。何を?私は息を飲む。

 「少しだけ、扉が開いてる」

 「ほ、本当だ…っ」

 そっと中を見た。

 えっ!?

 矢部先輩さんが数人の女の子に手を押さえられている。そして、一人、火を持っていた。これは、イジメ!?

 ということは、この人達は凪咲さんのファン……。

 私とアヤちゃんに、

 「ファッション部に入らないでねっ!」

 と言ってきた人達だ。

 胸騒ぎがする。矢部先輩さんを助けないと……!でも、どうやって?そう思っていると、声が余計に大きくなった。慌てて開きかけた口を閉じる。 

 「う…嘘…………」

 「誰かいるわ!!」

 アヤちゃんの独り言に、一人の生徒が反応する。

 いることが、バレた……!

 攻撃される?怒られる?

 「に、逃げるわよっ」

 「どこから?」

 「窓……!」

 ガサゴソと音をたて、外に出ていった。私は心臓の辺りを押さえる。何が起きたか、分からない。

 「ああ…二人とも……」

 「先輩……っ」

 アヤちゃんが扉を開けて、駆け出した。

 矢部先輩さんは私達を見て苦笑いを浮かべる。

 「今のこと、忘れて」

 「「えっ………」」

 「お願い」

 ……私も同じ気持ちになったことがある。皆に『お嬢様』であることを忘れてほしかった。矢部部長さんも、そんな気持ちなのかな。

 「お願いね。さぁ、部室にいかないとね」

 矢部先輩さんは教室の扉を開けた。

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