第二話 部活は何にする?

 五月になり、学校にも慣れてきた。

 アヤちゃんのことも少しずつ知れて来たんだ。

 アヤちゃんはポジティヴ思考で、思いやりがあって、ふわふわした性格。

 話が変わるけど、なんとなんと!

 アヤちゃんと呼べるようになったんだ!

 あだ名ではよべてないけど、大きな前進だよね。


 「来週の月曜日に部活見学があります」


 帰りのホームルーム中に先生が告げる。

 いけない、考え事してた。


 「柊中学校は少し部活の方針がちがいます」


 そうなんだ。

 けれど、お父様は『友達とは放課後遊ぶな、家で勉強しろ』という考え方なので、放課後は家に帰って勉強しなくちゃいけないんだ。

 つまり、部活には入れない。

 まあ、『義務教育なんだから学校は行け。白鳥家の品格が下がってしまう』とお父様は言うので、学校は行かなきゃいけないんだけど。


 「この中学校は帰宅部がありません。全員部活に入ります」

 「「「「「ええええええ~~!」」」」」


 とたんにクラスに不満の渦が巻き起こる。

 私は冷や汗を垂らした。

 帰宅部がないなんて……。

 放課後を使うの……?

 私は制服の胸元をつかんだ。


 「毎週月曜日の六時間目に部活の時間があり、その時間に必ず活動します。時間が足りない部活は昼休みや放課後を使います」


 そ、そうなんだ。

 下校時間はおそくならないんだ、よかった。

 もしも下校が遅くなったら、鬼の顔でお父様が待っていた……!

 考えるだけで涙が出そう。

 で、でもっ。

 私ちょっぴり部活にあこがれていとから嬉しい!

 帰りが遅くならなければ、怒られない。

 ブルーに染まっていた心が明るくなっていく。


「ちえっ」


 隣の席の鈴木すずきさんの舌打ちにおびえながらも、配られたパンフレットを見つめた。



〇◇◯◇



 月曜日。

 部活見学の時間になった。

 前日に部活は何があるか確認しておいたんだけど、柊中学校の部活はすごいんだよ。


 「推理部に~七不思議部に~ファッション部!イラストレーター部に、宇宙解明部~!」


 アヤちゃんが歌っている歌。

 この歌詞の部活があるんだ。とても新感覚!

 他にも、演劇部、陸上部、剣道部、テニス部、雑貨づくり部などなど。

 あげていったらきりがないくらい。

 思わず感嘆の笑みをもらした。


 「どこ行く~?」


 アヤちゃんがしゃべるスピードはゆっくり。

 そのせいか、アヤちゃんの周りだけ時間が遅く感じる。


 「私は、吹奏楽部と文芸部かな。アヤちゃんは?」

 「うーん、絞れない!ファッション部とテニス部と推理部かな~。そういえば最近アヤのことちゃんづけしてくれてるよね~。ありがとう~」


 ほおがかっと熱くなる。

 直接言われるとなんだか照れくさい。


 「ほほほほら、ファッション部の部室ついたよっ」


 ファッション部の部室・家庭科室のプレートを指差す。

 部室の前には、紙を配っている先輩が二人いた。

 きっとファッション部の人なんだな。

 ファッション部の紹介蘭には、確か、


 『ファッション部は服をデザインします。中学生ファッションコンテストで”金賞”を目指しています。気軽にきて来てね!』


 と書いてあった。

 すごく楽しそう!

 私は、先輩たちに声をかけようと、しどろもどろ。

 ……あれっ?

 熱心に紙を配っている先輩をみんながスルーしていく。

 それはなんだか、無視されているようにも見えた。

 何だか、を思いだす。


 「ファッション部です」

 「服をデザインしています!」

 「あの~」


 早速アヤちゃんが声をかける。


 「うん?あっ、もしかしてファッション部に興味があるの?」

 「えっ!ほんと?ウエーイッ」


 先輩を目の前にわたしはオドオドする。


 「部室入ってもいいですか~?」

 「ええ」


 アヤちゃんの言葉で部室に入れることに……!

――ガラッ


 「「うわぁぁー!」」


 私とアヤちゃんは声をハモらせる。

 キレイ、豪華!

 アヤちゃんは鼻息を荒くした。

 私は魚を見つけた猫のように瞳をキラキラ輝かす。

 壁には大きな文字で「ファッション部」と書かれていて、周りには、桃色やイチョウ色のお花や青い鳥のかざりがついている。


 「す、すごいです!」


 思わず私は感嘆の声をもらした。


 「ありがとう。私、部長の矢部心春やべこはる。三年生なの。よろしくね」


 低めに固い三つ編みをしていて、眼鏡をかけていて大人っぽい女の人が、矢部部長さん。

 前髪をきっちりととめていて、いかにも優等生らしい雰囲気だ。


 「俺、水井悠斗みずいはると!よろしゅう~。二年で一の応、副部ちょー!一年来てくれたんやな。嬉しすぎて涙でそー」


 短髪でお調子者そうな水井先輩さんがニカッと笑いかけた。

 きっちりと髪の毛をセットしていてきっちりしているかと思いきや、長くのズボンは短い。

 ベルトは黄金に輝いている。


 「佐野綾で~す」

 「白鳥円菜です」


 優しそうな先輩で、私はほっと胸をなでおろした。

 それにしても……部室に人が少ない。

 私達を含めて、四人。


 「ファッション部の他の部員は~?」


 いきなりアヤちゃんが尋ねた。

 アヤちゃん、もう少し気を使ったほうが良いんじゃない!?

 アヤちゃん少し……いや、かなり、(失礼だけど)天然なんだよね。


 「いないよ。私と悠斗の二人だけ。ファッション部はちょっとね……。いやなんでもないよ」

 「ブチョーの彼氏は学校の王子様、谷凪咲たになぎさで、嫉妬されてるんだよね~」

 「ちょっと!もう!今のは忘れて」


 胸騒ぎがする。

 『嫉妬』という言葉が重たすぎて。

 そして、を思いだしてしまって。


 「さあ、服のデザインやってみる?」

 「はいっ!」


 アヤちゃんが即座に答える。

 けれど、私は無言になってしまった。


 「円菜やる?」

 「あっ。うん」



〇◇◯◇



 「準備ができたので、早速デザインしていきます」

 「フ―――!」


 矢部部長さんがこぶしを突き上げたと同時にクラッカーの音が鳴り響く。

 犯人は水井先輩さん。


 「もうっ。せっかく準備できたのに!は――――。さあ、悠斗のことは忘れてやりましょう」


 えっ。

 なんだか、水井先輩さんがかわいそうになってきた。


 「二人はデザインしたことある?」

 「「ないです」」

 「うん。なら、お題を決めて、それにあった服を描いてみましょうか。これがお手本よ」


 矢部先部長さんがぴらりと紙を見せた。

 白いブラウスに、深い緑色のスカート。

 黒色のベルト。

 オシャレ……。


 「テーマは不思議の国のアリスにしようか。さあ、描いてみよう!」

 「「おう!」」


 アヤちゃんと水井先輩さんは声をそろえる。

 ちょっぴり、似ている気がした。

 ということはさておき。

 初のデザイン!

 〈不思議の国のアリス〉って、うさぎを追いかけてトランプの世界にアリスが迷い込み、大冒険をする。

 でも、それは夢だった・・・そんなお話。


 「まずは服の色を決めたらいいよ」


 矢部部長さんはにこりと笑顔で私を見下ろす。

 ふと手元を見ると、矢部部長さんの鉛筆がきれいに光っていた。

 薄いピンク色の縞模様≪しまもよう≫。

 ファッション部と言うだけあって、おしゃれだ。

 服の色は、水色にしよう。

 いつも私は赤色や黒色のワンピース、ドレスをきているから、明るい色を使って見たくなってきた。

 制服も赤色と白色だからね。

 考えるのが、とてもワクワクする。

 心がわたぐものように柔らかくなっていく。

 アリスの服を、イメージにない緑色や、ましてや金色にしてもいいんだ。

 自分『だけ』の発想ができる……!


――ピンポンパンポーン

――「三年生矢部心春さん、二年生水井悠斗さん。至急職員室に来てください」

――ピンポンパンポーン


 「え、なんなん?俺なんかやらかした?」

 「ごめんなさいね。至急だから……早く行かないと。白鳥さん佐野さん、他の部活見学行っておいて」

 「バーイ!」

 「ほら、悠斗いくよっ」


 騒がしく、二人はいなくなった。

 竜巻のような速いスピードで、先輩達は見えなくなる。

 私は、唖然あぜんとした。

 至急?

 何があったんだろう?

 先輩達は確かに呼ばれた。


 「円菜、次は文芸部行こ~」

 「……うん」


 不安だけが、心をおおってしまう。

 私はファッション部の先輩達を想像する。

 会って間もないないけど、優しい人なのは、分かった。

 そういえば。

――「ブチョーの彼氏は学校の王子様、谷凪咲で、嫉妬されてるんだよね~」

 水井先輩さんはこう言っていた。

 嫉妬か……。

 チクリと胸が痛む。

 他の部活の、見学へいっても胸は苦しいままだった。



〇◇◯◇



 あれから一週間。

 今日は部活を決める日。

 私は何にするか迷いながら、教室へ向かう。

 ファッション部が一番楽しかったけれど、どうしても『嫉妬』という言葉が糸にからまったようにひっかかる。

 もしかして矢部部長さんは……。

 いいや、想像するのはやめよう……。


 「円菜~!」


 アヤちゃんが走って来る。

 いつもと違って、顔が真っ青だ。


 「前!」


 えっ?

 振り返ると、二十人くらいの女の人。

 思わずぶつかりそうになる。

 上靴の色からして、全員三年生。


 「ファッション部に見学してた子よね!?」


 いきなり声をかけられてた驚く私。


 「はいっ……」


 蚊の泣くような声しかでない。

 空気が読めないアヤちゃんも黙っている。


 「ファッション部なんて入ったらだめよ」「そうそう!」「あんな部長のところは」「私たちの凪咲様を!」「とった、卑怯な女だから」


 全員「I LOVE♡ NAGISA」というキーホルダーをつけている。

 体の芯が冷たくなる。

 血の気が引いて行く。

 凪咲様……矢部部長さんの彼氏さんだ。

 もしかして、凪咲さんをとられて、この人達は矢部部長さんのことを嫉妬してる?


 「なにがファッション部よ!まずは自分の顔を可愛くしてから、服のこと気にしなさいよっ!」

 「そうだ。ファッション部なんて、あなた達、入らないでね!」


 その一言で分かった。

 部員が矢部部長さんと水井先輩さんしかいないのは、この人達のせいだ。


 「入ったら、許さないから!」


 凪咲さんファンの人達が去っていく。

 とたんに体が震えてきた。

 小学生の頃の、不幸は記憶が思い浮かぶ。

 私は小学生の頃、明るくて元気な性格だった。

 一年生の頃は、クラスの中心。

 友達も多いほうだった。


 「まどちゃん。」「マドナ~!」


 家の「大人しいお嬢様」ではなく、本当の「元気で明るいムードメーカー」として認められた気分になった。

 でも、その日常はとの一件で崩れた。

 ある日、大親友のあーちゃんとクリスマス会をすることになった。

 あーちゃんは優しくて、な信用できる友達だったから、絶対にクリスマス会をやりたかった。

 お父様はそれを許してくれなかった。

 だから、私は家を勝手に抜け出し、クリスマス会をした。

 『ばれない!』なんて威張いばっていたのに、すぐにばれた。

 そして、友達と関わらなくさせるために、護衛をつけ、話しかけようとすると止められるようになった。

 あれから、あーちゃんと喋っていない。

 転校してしまったのか、二年生からは一度も顔を見ていない。

 二年生になったら、私がお嬢様だということを知り、かすかに悪口を言われた。

 三年生になったら、いじめれれた。


 「お嬢様だからっていばるな」「親一代で立ち上げた由緒のない会社の小娘」


 そういわれて、学校で笑えなくなっていった。

 四年生になってからずっと卒業まで誰一人と喋っていない。

 五年生の頃の、の時も。

 六年生の頃の、修学旅行も。

 全部独りぼっち。

 それが日常になっていった。

 でも、慣れることはなかった。

 毎日続く、学校はまるで地獄。

 私はお母様の命令で学校は行かなければならない。

 なので、私は遠くの学校を受験し、柊中学校に来た。

 柊中学校は設備も厳重で、安心安全。

 そう言って両親は行くことを許可してくれた。

 私と小学校が同じなのは、一人だけ。

 いじめから離れられた。

 でも、今ファッション部に入ればいじめられる。

 もう、あんな思いはしたくない。

 鼻が痛む。


 「円菜……」


 アヤちゃんの声が耳に入る。


 「あのさ!」


 視界がぼやけて、アヤちゃんの顔がゆがむ。


 「いじめられるかもって心配してるの?大丈夫だよ!アヤが守ってあげる!あの先輩達、アヤがいたら、すぐにいなくなるよ!もう、


 ア……ヤ…ちゃん………。


 「ほんとはファッション部に入りたいんでしょ!?」


 アヤちゃんの言葉がいつもの倍以上に強くなる。


 「ゔ、ゔん゛……!」

 「ならアヤもファッション部に入って、いじめからガードするよ!!」


 肩をゆさぶれ、涙がはらりと落ちる。

 アヤちゃんの言葉が胸に突き刺さる。


 「わ゛、わ゛だし……ファッション部に入るよ!」


 昔の私ならおびえる子犬みたいに臆病だった。

 でも、今は違う。

 アヤちゃんという優しい友達がいる。

 アヤちゃんは私のことを思ってくれている。

 いじめられても大丈夫な気がしてきた。

 私は四年ぶりに友達の前でほほ笑んだ。

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