第三話 部活は何にする?
五月になり、学校にも慣れてきた。
アヤちゃんのことも少しずつ知れて来たんだ。アヤちゃんはポジティヴ思考で、思いやりがあって、ふわふわした性格。
そして、そしてね!なんとなんと!アヤちゃんと呼べるようになったんだ!あだ名ではよべてないけど、私は少し普通に近づけたかもしれない。大きな前進だよね。
「来週の月曜日に部活見学があります」
帰りのホームルーム中に先生が告げる。
いけない、考え事してた。
けれど、私には関係ないこと。お父様は『友達とは放課後遊ぶな、家で勉強しろ』という考え方なので、放課後は家に帰って勉強しなくちゃいけないんだ。つまり、部活には入れない。『義務教育なんだから学校は行け。白鳥家の品格が下がってしまう』とお父様は言うので、学校は行かなきゃいけないんだけど。お父様はなぜか友達を嫌う。
「この中学校は帰宅部がありません。全員部活に入ります」
「「「「「ええええええ~~!」」」」」
とたんにクラスに不満の渦が巻き起こる。私は冷や汗を垂らした。帰宅部がないなんて……。放課後を使うの……?私は制服の胸元をつかんだ。
「毎週月曜日の六時間目に部活の時間があり、その時間に必ず活動します。時間が足りない部活は昼休みや放課後を使います」
そ、そうなんだ。
下校時間はおそくならないんだ、よかった。
もしも下校が遅くなったら、お父様に与えられたスケジュールが崩れてしまうところだった……!考えるだけで涙が出そう。
で、でもっ。帰りが遅くならなければ、怒られないよね ちょっぴり部活に憧れていたから嬉しい! ブルーに染まっていた心が明るくなっていく。
隣の席の
〇◇◯◇
月曜日。
部活見学の時間になった。柊中学校の部活はすごいんだよ。
「推理部に~七不思議部に~ファッション部!イラストレーター部に、宇宙解明部~!」
アヤちゃんが歌っている歌。この歌詞の部活があるんだ。とても新感覚!他にも、演劇部、陸上部、剣道部、テニス部、雑貨づくり部などなど。あげていったらきりがないくらい。
どれにしようか考えるだけでワクワクする!思わず感嘆の笑みをもらした。
「どこ行く~?」
アヤちゃんがしゃべるスピードはゆっくり。そのせいか、アヤちゃんの周りだけ時間が遅く感じる。
「私は………どこでも良いよ。アヤちゃんは?」
「うーん、絞れない!ファッション部とテニス部と推理部かな~。そういえば最近アヤのことちゃんづけしてくれてるよね~。ありがとう~」
アヤちゃんは自分の希望をサラッと言えたのに、私は言えなかった。ことに悲しみを覚えた。
「ほほほほら、ファッション部の部室ついたよっ」
ファッション部の紹介欄には、確か、
『ファッション部は服をデザインします。中学生ファッションコンテストで”金賞”を目指しています。気軽にきて来てね!』
と書いてあった。 すごく楽しそう!
ファッション部の部室・家庭科室のプレートを指差す。部室の前には、紙を配っている先輩が二人いた。きっとファッション部の人なんだな。 私は、先輩たちに声をかけようと、してもじもじしながらその場にいた。
……あれっ?廊下を歩く人たちが、熱心に紙を配っている先輩をながスルーしていく。それはなんだか、無視されているようにも見えた。先輩の姿が昔の自分の姿と重なる。
「あの~部室入ってもいいですか~?」
早速アヤちゃんが声をかける。
「うん?あっ、もしかしてファッション部に興味があるの?」
「えっ!ほんと?ウエーイッ」
くいつきが激しい先輩を目の前に、わたしはオドオドする。
大喜びの先輩が勢いよくドアを開けるとそこに……!
――ガラッ
「「うわぁぁー!」」
私とアヤちゃんは声をハモらせる。壁には大きな文字で「ファッション部」と書かれていて、周りには、桃色やイチョウ色のお花や青い鳥のかざりがついている。キレイ、豪華!アヤちゃんは鼻息を荒くした 私は魚を見つけた猫のように瞳をキラキラ輝かす。
「す、すごいです!」
思わず私は感嘆の声をもらした。
「ありがとう。私、部長の
低めに固い三つ編みをしていて、眼鏡をかけていて大人っぽい女の人が、矢部部長さん。前髪をきっちりととめていて、いかにも優等生らしい雰囲気だ。
「俺、
短髪でお調子者そうな水井先輩さんがニカッと笑いかけてきた。髪の毛は生真面目にとセットしているのに、長くあるはずのズボンは短い。アンバランス。ベルトは黄金に輝いている。二人とも
「佐野綾で~す」
「……白鳥円菜です。よろしくお願いいたします」
優しそうな先輩で、私はほっと胸をなでおろした。
それにしても……部室に人が少ないな……。私達を含めて、四人。
「ファッション部の他の部員は~?」
いきなりアヤちゃんが尋ねた。アヤちゃん、初対面なのにそんなに喋れるんだ!?アヤちゃんの喋る力に私は驚く。
「いないよ。私と悠斗の二人だけ。ちょっとね……。いやなんでもないよ」
「ブチョーの彼氏は学校のモテモテ王子様・
「ちょっと!余計なこと言わない!もう!今のは忘れて」
「早速だけど、服のデザインやってみる?」
「はいっ!」
アヤちゃんが即座に答える。
けれど、私は無言になってしまった。
「円菜やる?」
「あっ。うん」
〇◇◯◇
「準備ができたので、早速デザインしていきます」
矢部部長さんがこぶしを突き上げたと同時にクラッカーの音が鳴り響く。犯人は水井先輩さん。
「もうっ。一年生を驚かせないで!!は――。さあ、悠斗のことは忘れてやりましょう」
えっ。軽くあしらわれてる。なんだか、水井先輩さんがかわいそうになってきた。
矢部先部長さんがぴらりと紙を見せた。お手本だ。
白いブラウスに、深い緑色のスカート。黒色のベルトで引き締めている。オシャレ……。
「二人はデザインしたことある?」
「「ないです」」
「うん。なら、お題を決めて、それにあった服を描いてみましょうか。うーん…不思議の国のアリスにしようか。さあ、描いてみよう!」
「「おう!」」
アヤちゃんとなぜか水井先輩さんが声をそろえて返事をした。ふたりがちょっぴり、似ている気がした。
ということはさておき、初のデザイン!
「まずは服の色を決めたらいいよ」
にこりと笑顔をむけてくれた矢部部長さんの手元を見ると、シャーペンがきれいに光っていた。薄いピンク色の
服の色は、水色にしよう。いやでも、アリスの服を、イメージにない緑色や、ましてや金色にしてもいいんだ。いつも私は赤色や黒色のワンピース、ドレスをきているから、明るい色を使って見たくなってきた。考えるのが、とてもワクワクする。心がわたぐものように柔らかくなっていく。自分『だけ』の発想ができる……!
――ピンポンパンポーン
――「三年生矢部心春さん、二年生水井悠斗さん。至急職員室に来てください」
――ピンポンパンポーン
「え、なんなん?俺なんかやらかした?」
「ごめんなさいね。至急だから……白鳥さん佐野さん、他の部活見学に行ってくれる」
「バーイ!」
「ほら、悠斗いくよっ」
騒がしく、竜巻のような速いスピードで、先輩達は見えなくなる。
私は、
至急?何があったんだろう?先輩達は確かに呼ばれた。不安だけが、心を
「円菜、次は文芸部行こ~」
「……うん」
ファッション部の先輩達は、会って間もないないけど、優しい人なのは、分かった。
そういえば。
――「ブチョーの彼氏は学校の王子様、谷凪咲で、嫉妬されてるんだよね~」
水井先輩さんはこう言っていた。嫉妬か……。『嫉妬』という重い言葉に心が痛む。そして、昔の自分を思いだしてしまって、他の部活の、見学へいっても胸は苦しいままだった。
〇◇◯◇
あれから一週間。
今日は部活を決める日。
私は何にするか迷いながら、教室へ向かう。ファッション部が一番楽しかったけれど、どうしても『嫉妬』という言葉が糸にからまったようにひっかかる。もしかして、矢部部長さんは……。想像すると嫌な思い出があふれて来る、考えるのはやめよう……。
「円菜~!」
アヤちゃんが走って来る。
いつもと違って、顔が真っ青だ。
「前!」
えっ?
振り返ると、二十人くらいの女の人。思わずぶつかりそうになる。上靴の色からして、全員三年生。
「ファッション部に見学してた子よね!?」
いきなり声をかけられてた驚く私。
「はいっ……」
蚊の泣くような声しかでない。
空気が読めないアヤちゃんも黙っている。
「ファッション部なんて入ったらだめよ」「そうそう!」「あんな部長のところは」「私たちの凪咲様を!」「とった、卑怯な女だから」
全員「I LOVE♡ NAGISA」というキーホルダーをつけている。
体の芯が冷たくなる。血の気が引いて行く。凪咲様……矢部部長さんの彼氏さんだ。
「なにがファッション部!まずは自分の顔を可愛くしてから服のこと気にしなさいよ!」
「そうよ。ファッション部なんて、あなた達、入らないでね!」
「入ったら、許さないから!」
部員が矢部部長さんと水井先輩さんしかいないのは、この人達のせいだ。
凪咲さんファンの人達が去っていく。とたんに体が震えてきた。私は……立つことすら出来ずにガクッと座り込む。
小学生の頃の、不幸な記憶が思い浮かぶ。
私は小学生の頃、明るくて元気な性格だった。一年生の頃は、クラスの中心。友達も多いほうだった。
「まどちゃん」「マドナ~!」
家の「大人しいお嬢様」ではなく、本当の「元気で明るいムードメーカー」として認められた気分になった。
でも、その日常は大親友との一件で崩れた。
大親友の名前は……思いだせない…、思いだそうとしても霧で名前が隠される。ある日、大親友とクリスマス会をすることになった。大親友は優しくて、信用できる友達だったから、絶対にクリスマス会をやりたかった。お父様はそれを許してくれなかった。
だから、私は家を勝手に抜け出し、クリスマス会をした。『ばれない!』なんて
そして、友達と関わらなくさせるために、護衛をつけ、話しかけようとすると止められるようになった。あれから、大親友と喋っていない。転校してしまったのか、二年生からは一度も顔を見ていない。
二年生になったら、私がお嬢様だということを知り、かすかに悪口を言われた。 三年生になったら、いじめれれた。
「お嬢様だからっていばるな」「親一代で立ち上げた由緒のない会社の小娘」
そういわれて、学校で笑えなくなっていった。四年生になってからずっと卒業まで誰一人と喋っていない。五年生の頃の、市の体育祭の時も。六年生の頃の、修学旅行も。全部独りぼっち。それが日常になっていった。でも、慣れることはなかった。
毎日続く、学校はまるで地獄。私はお父様は会社の品を下げたくないと言うので学校は行かなければならない。なので、私は遠くの学校を受験し、柊中学校に来た。
フラッシュバックと戦うように、私は息を落ち着かせる。
ファッション部の先輩方は、個性が溢れている先輩だった。私は、先輩達のような自分らしさを持っていない。見学したい部活すら言えない。私の人生はお父様が全てきめてきたから。『お父様に塗られた
あの先輩達となら変われる、そんな気がしていたけれど……。
ファッション部に入ったら、きっといじめられる。違う理由でいじめられる。私は、スーーと頬に垂れてくる水をぬぐう。なら私はどこの部活に入って、
「……円菜、アヤは何も分からない。でも、自分の好きなようにするのが良いと思う!」
「えっ…?」
簡単な言葉に、ポンっと背中を押された気がした。その勢いで、いつの間にか口からこぼれた言葉が
「ゔ、わ゙わたじっ……ファッジョン部にっ入るよ!」
「それが良いと思うよ」
「あ、ありがどうっ」
私は、アヤちゃんに渡されたハンカチを握りしめる。
……自分らしさを探したい、そう思った。
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