第二話 久しぶりの声かけ
友達ができるか、そして嫌われないかという不安が
どくんっと心臓がはねあがる。もう小学生の時みたいな学校生活はしたくない。
「どうした~?」
「うわぁぁぁ!」
振り返るとツインテールの小柄な少女が立っていた。雪色のシュシュがまるで羊さんみたい。見るからに優しい性格だ。
「ドアの前で立ち止まっているから、どうした~って声をかけたけど、そんなに驚いちゃった?ごめんね」
ごめんなさい、考え事してました。
「中学校で緊張していて、ごめんなさい」
「ならいいや。さっ、入ろ~!」
少女は私の手をにぎり、勢いよく扉を開け放つ。
――ズバーンッ
そして、ずかずかと教室に入った。私は手を引かれ、遅れて教室に入った。
「あ、あの子!」「うわさできいたことあるよ」「ホワイトフライの社長令嬢の」「話しかけてみない?」「ええっ、いいかなー?」
変な目で見られてる?まさか、また、「社長令嬢」という言葉に悩まされる日々が始まる?
小学校の頃、最初は社長令嬢に興味があった人も、あまりの違いにだんだん悪口を言い始めた。……記憶の蓋が開きそうになり、私は急いで蓋を閉めた。
「アヤは、
「しししし白鳥円菜です……」
「へー、円菜ちゃんっていうんだ~。可愛い名前だね!名前の通りマドンナだね~。今もすっごく視線集まってる~」
名前の効果じゃないと思う……と言いたかったけれど、先生が入って来てしまった。
「えー、席に座って下さい」
〇◇◯◇
入学式が終わり、下校時間。
「マドンナ円菜!いっしょに帰ろっ」
呼び捨てをされ、戸惑う私。四、五年ぶりに名前で呼ばれ、胸がざわめく。
「ええええっと……。佐野さん……?あの…」
「もしかしてマドンナは、嫌だった~?ごめんっ」
こんな時、私はどう答えたら正解なんだろう…。
『一緒に帰りたいけど、校門に迎えの車が来ているので、ごめんなさい』……とかかな?
「佐野で名前あってるけど、『さん』づけ、名字呼びやめて~。アヤはずっとアヤちゃんっていわれてたから。たまにあーちゃんともいわれるけど」
うっっ。 ちゃんづけでよぶなんてハードルは高い、数字でいうなら五メートル。あだ名なんて、十メートル!
「円菜これからよろしくね~!」
「はいっ」
佐野さん…じゃなくて…アヤさんはしっかりと頷く。目を見て話してくれる人なんて、何年ぶりかな。道路のほうに目をやると、いかにもお金持ちそうな迎えの車が止まっていた。
「ここでお別れです」
「え~。アヤはこっち方面だけど、円菜は?」
アヤさんが校門から出て、右側を指す。
「この車に乗って帰るので…」
「いいな~お迎え。学校お迎えオッケーなの?」
「特別な許可をいただいていて…」
「へ~。円菜って、お嬢様?」
『お嬢様』と言う言葉に硬直する。キリッと心が痛んで来て、私は顔を歪めてしまった。
私は……中学生になっても『お嬢様』と言われ続けなきゃいけないの?
「噂で聞いたことあるけど、ほんとなんだ!すごいっ!すっごく大きい家に住んでるんでしょ~?いいな~」
初日なのにもう噂になっているなんて…。私が「威張ってる」って伝えられてるかも…?
その後、アヤさんは笑いかけてくれていたけど、私は不安で固まったままだった。
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