リーフ~ファッション部とお嬢様~

石川 円花

第一話 始まり

 「円菜様まどなさま、学校のお時間です」

 「あ、ありがとうございますわ。明日香あすかさん」


 つるされたシャンデリア、純白の階段。

 私・白鳥円菜しらとりまどなが住んでいる家は大きなお屋敷なんだ。

 執事さんもいるし、食事はミシュランシェフが作ってくれる。

 私の父親が立ち上げたIT企業「ホワイトフライ」はとても有名で、大儲け。

 お金はもう山ほどある。

 皆は『お金持ち』と聞いたら自由だと思わない?

 でも私の暮らしは不自由。


 「円菜様、社長・孝一郎こういちろう様はいつも通り深夜のお帰りです」


 生活が不自由なのは、私のお父様・白鳥孝一郎のせい。

 お父様のおかげで「お金持ち」と言われる。 

 でも、放課後や家での生活はロープできつく縛られたみたいに自由じゃない。

 朝起きたら、中国語の勉強。

 これが、十年ぐらいやっているけど、結構大変。

 中国人に失礼だけど……中国語は暗号みたい……。

 …いや、全ての言語の中で一番難しいのは日本語。

 日本人がそんなこと言ったら、失礼すぎる……よね。

 そして学校から帰ってきたら、数学の勉強。ITの勉強、国語の勉強、イタリア語の勉強……。

 これを毎日やると、頭が噴火する!

 しかも、放課後は誰とも遊べない。

 着る服、土曜日日曜日の予定、買う物、口調も決められている。

 心の中では「だよ」っとしゃべっているけど、家では「ですわ」と言わなくてはいけない。


 「ふ―――――」


 私は重々しいため息をついた。


 「……どうしましたか?今日は入学式ですよ」


 執事の明日香さんが言う。


 「あ!申し訳ございません。行ってきますわ」


 制服のリボンをしばって、紺色こんいろのローファーをはく。

 これがなのかな…。

 中学生になるんだのいう実感がこみあげてくる。

 ……けれど、時間がおしい。


――ガチャッ


 私は黒塗りの車へ乗りこんだ。



◯◇◯◇



 十分ほどたつと見慣れない学校が見えてきた。


 「円菜様の入学されるひいらぎ中学校ですよ」


 これから通う中学校か……。

 パタリと車の扉が開く。

 四月の爽やかな風が私の髪の毛をなびかせた。

 それと同時に桜がほおにあたる。


 「いってらっしゃいませ」

 「ええ」


 運転手さんに頭を下げ、校舎へ入る。

 私のこれから通う柊中学校は、大人数で、一学年二百人もいるんだって。

 いわゆる、マンモス校。

 友達ができるか、そして嫌われないかという不安が荒波あらなみの ように押し寄せてくる。

 と、そんなことを考えている間にもうクラスの真ん前だ。

 どくんっと心臓がはねあがる。

 これから一年間過ごす場所。

 お父様の『学校なんてどうでもいい』と言う考え方のおかげで、お父様から離れられる唯一の場所。

 もう小学生の時みたいな学校生活はしない!


 「どうした~?」

 「うわぁぁぁ!」

 

 私はいきなりの声に肩を震わせる。

 振り返るとツインテールの小柄な少女が立っていた。

 雪色のシュシュがまるで羊さんみたい。

 見るからに優しい性格だ。


 「ドアの前で立ち止まっているから、どうした~って声をかけたけど、そんなに驚いちゃった?ごめんね」


 ごめんなさい、考え事してました。


 「中学校で緊張していて、ごめんなさい」

 「ならいいや。さっ、入ろ~!」


 少女は私の手をにぎり、勢いよく扉を開け放つ。


――ズバーンッ


 そして、ずかずかと教室に入った。

 私は手を引かれ、遅れて教室に入った。

 変な目で見られてる?

 まさか、また「社長令嬢」って言われる……?


 「あ、あの子!」「うわさできいたことあるよ」「ホワイトフライの社長令嬢の」「話しかけてみない?」「ええっ、いいかなー?」

 

 また、「社長令嬢」という言葉に悩まされるんだ。

 最初は興味があった人もだんだん悪口を言い始める。

 それは、もう、知っている。

 ……


 「アヤは、佐野綾さのあやっていうんだ。よろしくね~!」

 「しししし白鳥円菜です……」

 「へー、円菜ちゃんっていうんだ~。それならこれからのあだ名は、マドンナだね!今も視線集まってるし」


 それは、違うと思う……と言いたかったけれど、先生が入って来てしまった。


 「えー、席に座って下さい」



〇◇◯◇ 



 入学式が終わり、下校時間。


 「マドンナ円菜!いっしょに帰ろっ」


 呼び捨てをされ、戸惑う私。

 四、五年ぶりに名前で呼ばれた。

 いらいだ。


 「ええええっと……。佐野さん……?マドンナはちょっと……」

 「そっか~。ごめんっ」


 いつも校門前に、迎えの車がきてるんだけど……。


 「佐野で名前あってるけど、『さん』づけ、名字呼びやめて~。アヤはずっとアヤちゃんっていわれてたから。たまにあーちゃんともいわれるけど」


 うっっ。

 私、五年生の頃から『さん』づけで呼んでたから、難しい。

 まだ、名前呼びはできるけど。

 ちゃんづけでよぶなんてハードルは高い、数字でいうなら五メートル。

 あだ名なんて、十メートル!


 「円菜これからよろしくね~!」

 「はいっ」


 佐野さん……アヤさんはしっかりとうなずく。

 目を見て話してくれる人なんて、何年ぶりかな。

 道路のほうに目をやると、いかにもお金持ちそうな迎えの車が止まっていた。


 「ここでお別れです」

 「え~。アヤはこっち方面だけど、円菜は?」


 アヤさんが校門から出て、右側を指す。


 「この車に乗って帰るので…」

 「いいな~お迎え。学校お迎えオッケーなの?」

 「特別な許可を」

 「へ~。円菜って、お嬢様?」


 『お嬢様』と言う言葉に硬直する。


 「噂で聞いたことあるけど、ほんとなんだ!すごいっ!すっごく大きい家に住んでるんでしょ~?いいな~」


 噂なんてされてるの…。

 私が「威張ってる」って伝えられてる……?

 アヤさんに笑いかけられたけど、私は固まったままだった。

 

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