私色に染まりたい~ファッション部とお嬢様~

石川 円花

第一話 社長令嬢

 「良いな………」

 「どうされましたか、円菜様」

 「あっ、いいえ」

 私、白鳥円菜しらとりまどなは車から登校中の中学生を見て呟いた。

 私は今日から中学生になる十一歳。私は社会のいわゆる『社長令嬢』。お父様が大手IT企業『ホワイトフライ』の社長で、私はホワイトフライの跡取り娘。

 本当は男の子がやるのだけど、弟も兄もいないから私がやることになっているんだ。

 執事さんもいるし、食事はミシュランシェフが作ってくれる。 皆には『お金持ちで良いな』なんて言われるけれど、私はになりたい。社長令嬢だから、の扱いが好きじゃない。

 「円菜様、社長・孝一郎こういちろう様はいつも通り深夜のお帰りです」

 生活が不自由なのは、私のお父様が原因なんだ。放課後や家での生活はロープできつく縛られたみたいに自由じゃない。

 朝起きたら、中国語の勉強。着替えるのは特注品の制服だ。 そして学校から帰ってきたら、数学の勉強。ITの勉強、国語の勉強、イタリア語の勉強……。

 しかも、放課後だけじゃなく、休日の予定も決まっていて誰とも遊べない。

買う物、口調も決められている。 心の中では「だよ」っとしゃべっているけど、家では「ですわ」などと言わなくてはいけない。社長の娘、であるから仕方がないこと、それは分かっているんだ。でも、これを毎日やると、頭が噴火しそうになる。

 キャハハと笑いながら歩く中学生が、私には遠い憧れ。分かってるんだ、私はお嬢様としか扱われていないことを。

 私は目を背けて足元を見る。ローファーも、特注品。 それが私の日常なんだ、と思い知らされる。ハァ…逃げ場がない悩み………。

 十分ほどたつと見慣れない学校が見えてきた。

 これから通う中学校か……。パタリと車の扉が開く。

これから一年間過ごす場所。お父様の『学校なんてどうでもいい』と言う考え方のおかげで、お父様から離れられる唯一の場所。

 四月の爽やかな風が私の髪の毛をなびかせた。それと同時に桜がほおにあたる。

 「いってらっしゃいませ」

 「ええ」

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