第十二話 アヤちゃんとノアちゃん
「アヤちゃん……!」
次の日の学校。私は一目散にアヤちゃんに声をかけた。
「えっ………」
ツインテールを揺らして、アヤちゃんは振り返る。まるで幻を見たかのように、目が微かに揺れた。
「円菜……?」
「うんっ」
「ほんと……?護衛は…?」
「もう、いないよ」
「良かった~~~!」
こんなに心配してくれる人がいたんだ。
心がホカホカ、温かくなる。ひつちゃんのおかげで
「あっ……これ」
「?」
私の鞄を見て、声をあげた。
これ・・・ひつちゃんのことか。
「これ、昔の親友からもらったんだよっ」
「そうなんだ……!」
アヤちゃんが嬉しそうに言う。
「教室、行こう~」
アヤちゃんが階段を駆け上がる。
すごく、速い。あれ?校則で『走らない』って書いてなかった?
「アヤちゃん、走ったら、駄目だよー」
「ふふふっ。追いついてみなさ~い!」
「ちょっとー!待ってよ~」
アヤちゃんがトントントンと階段を上がっていく。私はそれを、笑顔で追いかけた。
〇◇◯◇
――キーンコーンカーンコーン
午前中の授業が終わり、お弁当を食べる準備をしていた。と、その時。
「円菜~!今日は外で食べようよ!校庭のベンチで~」
アヤちゃんがそう言う。
「いいよ」
私はお弁当を持って、アヤちゃんを追いかけた。
アヤちゃんと一緒にお弁当を食べるのは、後、何回?アヤちゃんが転校してしまうかもしれない。 二年生はクラスが違うかもしれない。一緒にアヤちゃんといることは、
上靴を脱ぎ、外靴に履き替える。
「ねぇ、円菜」
「うん?何?」
アヤちゃんが歩きながら言う。校庭に続く道を歩く。
「アヤと小学生の頃、会ったこと覚えてる?」
いきなりすぎて、私は立ち止まる。
えっ…………。アヤちゃんと会った…?そんな覚えは、無い。私は思わず立ちつくした。
「ごめんっ。とりあえずベンチまで競争するよ~」
「えっ、お弁当崩れちゃうよ!?」
「いいの、よーい、どん!」
アヤちゃんが全速力で走りだす。速い…!今日の朝思ったけど、アヤちゃん身体能力高い。
「ハ、ハ。速いよー、ハー、ハー」
「大丈夫~?疲れた~?座って」
うながされて、ベンチに座った。
「食べよっ」
「うん」
お弁当の包みを開けて……。
「「いただきます」」
ミシュランシェフの作った最高級ポテトサラダを口に入れる。
外で食べると、いつもと違う味がした。
「円菜、さっきの話の続きをしていい?」
「さっき…?」
「うん。アヤと円菜が昔会ったという話」
あっ………。口からご飯が落ちそうになる。
お父様に、「次期社長は食事マナーが大切だ!」って怒られちゃう。
「これ」
そう言って見せられたのは……。
「ひつちゃん!…の色違い!?」
ひつちゃんとリボンの色が違う小さな人形。なんで、アヤちゃんが持ってるの……?まさか、ノアちゃんと知り合い?
「ノアちゃんの居場所知ってるの!?」
「アヤが、ノア」
突然アヤちゃんが告げる。
「アヤが、ノアなんだ」
冗談を言って…。私は苦笑いを浮かべる。
でも、アヤちゃんは真剣だった。
ピラリと一枚の紙を渡された。サンタの帽子をかぶった私とノアちゃんの写真。あーちゃんの両親がカメラで撮ってくれたんだよね…。この写真はあーちゃんとノアちゃんの両親しかもっていないはず。う、嘘……。事実を突きつけられて、私は手を止める。
「二年生の頃から会えなくてごめんね」
アヤちゃんがうつむく。
そして、ポツリポツリと喋り出した。
〇◇△▢
アヤこと、佐野綾は一年生の頃、まどちゃんと仲良くなった。
どんどん仲良くなって…大親友だと思って、嬉しかった。これから
でも…クリスマス会の次の日から、まどちゃんと喋れなくなった。黒いスーツを着た、男の人に囲まれてしまって。アヤとまどちゃんが喋ろうとすると、まどちゃんを連れていってしまう。そんな日々が一年生の終わりまで続いた。二年生になったら、まどちゃんと喋れるかも、なんて思っていたけど、アヤが転校することになっちゃった。
その頃はよく分かっていなかったけど……。あれは、まどちゃんの親から転校しろと命令されたんだと思う。だって、家の場所は変わらず、お父さんお母さんの仕事も変わらず、学校だけが変わったから。
ずっとまどちゃんと会えなくて、悲しかった。
それからどんどん月日は流れて、もう五年生になった。五年生の行事、市の体育祭の日。なんと、まどちゃんを見つけた。同じ市にある小学校だったから会えた。やっと会えた……!すごく嬉しくて声をかけようとしたら、周りの人の声が耳に入った。
「白鳥さぁ、お嬢様だからって特別席があるんだってぇ」
「うそぉ」
「こんなに俺ら暑い思いしてんのにぃ!」
「ずるいよねぇ」
まどちゃんの方を指差す。アヤは固まった。イヤミ言われてる!?まどちゃんが嫌われてる…?まどちゃんが独りぼっちでいる。その事実にめまいがした。
なんとか声をかけようとしたけど……。無理だった。どうしても人が多くて……。声をかけられなかった。
――あれから約二年。
中学生になった。どうしてもまどちゃんのことが心にひっかかっていた…。すると!なんとまどちゃんと同じクラスになれた!円菜と言う名前で市の体育祭の時呼ばれていたから、この子だって分かった。声をかけられて嬉しかった。
……でも、なんとなきく
〇◇△▢
ノアちゃんと五年生の頃に会っていた?
私、白鳥円菜は夢の中にいるような気がした。
五年生の頃は一番いじめがひどかったから、人の目を見れていなかった。ずっと下を向いていた。ノアちゃんが私のことを見ていたなんて……!喜びと気づけなかった悔しさが心で混ざる。
「ドリカラ行ってから、喋れなくなったでしょ~。あの時、もう、すっごく落ち込んで~。明日から、もう喋れないかもしれない。だから、伝えようって思ったんだ」
アヤちゃんがそこまで考えていたなんて思いもしなかった……。
「勇気がずっと出せなくて…言うのが遅くなってごめん」
「ううん……、言ってくれてありがとう……」
五秒ほど沈黙。何と言えば良いんだろう。私は考える。
ノア……そうか、『佐野綾』の真ん中がノアなのか。やっぱり、ノアちゃんなんだ。
「ノアちゃん……!ごめんねっ……」
私は涙を溜めながら、アヤちゃんに抱きつく。アヤちゃんは少し驚いた目をしたけど、
「まどちゃん…、ううん、まどちゃんは悪くないよ……。会えて良かったね!」
と笑ってくれた。
五年ぶりにノアちゃんと喋れた、謝れた。私の頬から、喜びの結晶が流れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます