第十三話 おさそい

五日後。


――ピリリリッ。


 私の隣に居た明日香さんの電話が鳴った。


 「申し訳ございません」


 そういいながら、明日香さんは去って行く。

 私は名刺入れを見つめた。


 『江見美紀』


 ドリカラのことを考えると、どうしても悲しい気持ちになる。もう心春先輩と一緒にドリカラに挑戦出来ないんだ。少し前まではただ、金賞を取れなくて悔しいだけだった。でも、今は心春たよれる先輩が次回はいないと言うことが心に一番響いている。


 「はぁ―――――」


 私の長い髪の毛がサラサラ揺れた。頭をグシャグシャにかき回す。

 心春先輩に何かお返し出来ないかな。私を励ましてくれた心春先輩。

優しく部活を取りまとめてくれた。手紙でも書こうかな。そう思った時。


――バーンッ

 「円菜様!」


 明日香さんが部屋に入って来た。そして、サッと電話を差し出す。


 「江見様からでございます」


 江見…!?私は電話機を明日香さんからあずかる。


 『もしもし?円菜さん?』


 電話の向こうから、甲高い声が聞こえて来た。


 「あ、はい。白鳥円菜ですわ」

 『夕方にごめんなさい。当然ですが、名刺の裏見てくれましたか!?』


 私は当然すぎて、固まる。


 『見てなかったのなら、今、見てくれないかしら?』

 「えええっ」


 私は急いで名刺入れを開けて、江見さんの名詞を取り出す。慌てて、名刺の裏を見た。


 【白鳥円菜さんへドリカラの作品、素晴らしかったです。しかし、惜しくも金賞にはなりませんでしたね。私は一番柊中学校の作品が好きでした。そこで、YOU NOで、商品化しませんか。十一月三十日までにお返事をいただきたいです。詳しくは後日書類をお渡しします。

                    江見美紀】


 私は「!?」と声をあげた。商品化……!?


 『一日から、企画を考えたいのたいのです。が…今日、二十九日でしょう。もし読んでいなかったら、部員の方々に伝えられないなと思って電話を致しました』

 「申し訳ございません。気づいていませんでした!」


 声が裏返る。こんなに大切なこと、気づいていなかったなんて……。自分に聞きたくなる。なんで、気づいていなかったんだろう。


 『明日、お返事お願いしてもよろしいでしょうか』

 「はい。分かりました」

 『では、失礼します』 

――コトッ、ツーツーツー


 電話を明日香さんに手渡す。


 「こちらが書類になります。渡すのが遅れてしまいました」

 「ありがとうございます」


 二か月ほどファッションについて学んだら、早速服作りをするんだって!

 明日、伝えよう。皆はどんな顔をするだろう。私は胸を高鳴らせた。



〇◇◯◇



 「円菜~。いきなり集まりってどういうこと?」

 「そ、それは……お楽しみかな?」

 「え―――」


 私は少しニヤニヤしてしまう。アヤちゃんが驚く姿を想像した。幸福しあわせが私の心にいっぱい溜まる。


 「円菜!いきなりどうしたの?呼び出しなんて」

 「マドッチ―!!」

 「心春先輩、水井先輩」


 二人が仲良く部室に顔をのぞかせる。私は満面笑みを浮かべた。


 「カズキングも来たよ~」

 

 アヤちゃんが言う。 いつの間に、カズキング、と言う呼び方が定着したんだろう。


 「…………」


 案の定、鈴木さんは顔を赤らめている。アヤちゃん…かわいそうだよ……。

 

 「っで、呼び出したのは何か伝えたいからなの?」

 「はい」

 「うひょー!なんだろっ。なんだろ~なんだろ~」


 水井先輩が踊りだした。

 これをずっと待っていたら、キリが無い。これ、いつ言えばいいんだろう……?


 「もう言って良いわよ」

 「あっ、はい」


 私は息を吸う。皆が喜ぶと良いな。


 「柊中学校ファッション部の作品を商品化しないかと、YOU NOの社長様から、お誘いを受けました!」

 「「「「……………………えええええええええええええっ!?」」」」


 四人が叫ぶ。それと同時に私は知り餅をついた。四人の声が想像以上に大きすぎて、驚いちゃった。でも、私の顔はかすかに笑っている。


 「え、ちょっ、どういうこと~!!」

 「アヤも分からない~!」

 「あらあら……」


 アヤちゃんと水井先輩がしゃがんで、頭に手を置いている。

 それを見て、心春先輩は苦笑した。


 「これが書類だよ」

 「見せてもらうわね」

 「アヤも―」

 「俺もー」


四人が喜んでくれて良かった。私は心底ホッとする。四人は数分書類とにらめっこをした。


 「これ、江見さんからもらったの?」

 「はい。直接ではなく、郵便だけど」

 「……すごい」


 鈴木さんが書類を嬉しそうに見つめる。

 江見さんのせいでお父様にドリカラの事がばれてしまった。でも、江見さんがCMのモデルさんだったおかげで、お誘いが来たんだ。結果オーライ…かな。私は胸に手を当てる。

 

 「すごいじゃない、円菜。江見さんと知り合いだなんて」

 「円菜、ありがとー!」


 私、少しは役に立てた?

 足を引っ張ってばかりだったけど、お嬢様の私がファッション部に入った意味があった。お嬢様の私も良い、そう、思える。

 

 「こちらこそ」


 私はニコリと笑う。


 「さあ、早速お返事しないとね」

 「「「はい」」」

 「ラジャー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る