第十四話 「かねて」と「かねて」
あれから、二か月。
私はニコニコしながら、道を走る。今日は服デザインについての授業を受けた。
土曜日と日曜日だけなんだけど。そして、今、帰っている途中。
「フフフーンッフフフーン」
私はすごく上機嫌。ついつい鼻歌になっちゃう。スキップで道を進んでいったら……。。
「マドッチ~!」
おなじみの声がした。水井先輩だ。
何を言われるんだろう?そう考えながら振り返る。
「水井先輩……………………とアヤちゃん、鈴木さん!?」
「驚くべし~驚くべし~。驚く寿司~マグロ~」
「アヤが来て驚いた~イェイ!!」
「……………………」
陽気な水井先輩とアヤちゃん。その隣に、爪をいじっている鈴井さん。
雰囲気が明らかに違う。
私はどんな表情をすればいいか分からず、苦笑いを返した。
「で、心春、もうすぐ卒業でしょ?何か出来ないかな~」
「っていう話をアヤ達でして~」
「ちょっ!STOP《エスティ―オーピー》!アヤ達じゃ、カズキングも入っちゃう。ほら、カズキング『いやー』な表情してる!で、俺達二人の名前決めたデショウ」
「そうだった!」
二人の
それに鈴木さんが苦々しい表情をしているのは、カズキングと呼ばれたからだと思うよ…!?
しかも、二人で名前まで決めているんだ……。どこをツッコめばいいか、分からない。心春先輩がいないとすんごく大変。でも、それが楽しい。
「「ハ―ヤ!!」」
「その名前、言ってるんだったら、僕帰りますよ。要件だけ言って下さい」
「そうそう、そうだった!ごめん!!帰らないで」
「あのね、心春の卒業パーティーをしたいんだ」
アヤちゃんが耳元でささやく。
その内容に私と鈴木さんは目を見合わせた。
「心春先輩は二学期末で退部されるんだって。悠斗が言ってた」
「そうそう!ちょうど、俺達の服が発売されて二日!しかもその日は子どもの大好きな◯◯◯◯◯!『」心春卒業パーティー』と『服発売お祝いパーティー』と『◯◯◯◯◯パーティー』をしたいんだっ」
「と」が多すぎて混乱してしまった。
つまり、一回のパーティーで三つのことをするのか……。なるほど……。とても良いアイディアだ。ノアちゃん……アヤちゃんと、小学校一年生の頃やったけれどそのせいでバラバラになった行事。
「いいですね」
「賛成だよっ」
「なら、計画立てちゃお――!」
〇◇◯◇
私達はモクモクと作業を進めた。
なんと、お父様にも、休日の許可をもらえて、しかも部屋も借りることに成功!
私とお父様の間にあった、心の溝が埋まってきている気がする。
私はルンルン気分。アヤちゃんがパーティーの詳しい企画をしてくれたんだ。市販ケーキと高級ケーキの食べ比べ。プレゼント交換。そして、心春先輩へのお手紙を渡す。
心春先輩には『服発売お祝いパーティー』とだけ伝えている。別に嘘をついている訳ではない、けどサプライズだ。私は部屋に飾りつけをする。
「やっぱり豪華だね~想像はしていたけど~」
「イッツア、コウキュウ~!」
「……手を動かして」
なんにせよ、大きいから飾りつけは大変。
しかも、時間は限られている。
緑色と赤色の定番カラーが部屋を彩る。壁の所々に金色の風船を吊るした。
「すっごくきれー」
メイドさんや明日香さんも手伝ってくれている。少し背伸びをし、『Celebrate』という文字を付けた。明日香さんが張り切って買ってくれたんだ。
――「孝一郎様がお許し下さり良かったですね、円菜様。CELEBRATEはお祝いと言う意味でございます。三つのお祝い楽しんで下さいませ!!」
明日香さんは少し興奮したように言ったよね。私より明日香さんの方がパーティー、楽しみにしてるんじゃ……!?
「すっごいジョーデキ~!!これで心春もダンシング!」
「「「?」」」
ダ、ダンシング……?踊りの事だよね?心春先輩、踊れるんだ。
なんて、勝手にうなずいていたら……。
「心春がダンスするぐらい喜ぶって事!心春、ダンス出来ないしっ」
「もっと端的に、分かるように述べてください」
水井先輩の言葉に鈴木さんがすかさずツッコむ。
ちょっと怖い言い方だけど、言っていることはすごく合っている。自分世界って大変だ。そんなことを考えながらも、無事飾りつけ終了。さあ、当日、頑張ろう!
〇◇◯◇
「ハッピークリスマス~」
「あら、円菜。挨拶ありがとう。でも……メリークリスマスが適切ね」
「間違えました……!ごめんなさい…」
「いいの、いいの」
今日は十二月二十四日。
服発売お祝いパーティー兼、クリスマスパーティー兼、心春先輩の卒業パーティーの日だ!
明日香さんがくれた特注品のサンタ服を身につけて、私ははにかむ。ああ、喜びが爆発しちゃいそう。
ノアちゃんとのクリスマス会以来のクリスマス会。だから、余計に楽しみ。
「早く、部屋案内してよ~」
アヤちゃんが言う。本当はアヤちゃんも一緒に飾りつけをしたから部屋を知っている。
でも、心春先輩にはそれを知られると、「私だけ何で呼ばなかった?」と言う疑問が浮かび上がるので、私とメイドさんがやったと言う設定にした。ちなみに、心春先輩の卒業パーティーと言うのは最後まで言わないことにしている。
「早く~早く~速く~!新幹線は速い!!」
「あっ、分かりました。開けてもらっていいかしら?」
「「ええっ、もちろん。円菜様」」
私が尋ねるとメイドさんが答える。玄関がギギギッと開いた。私は部屋まで案内する。
「ここが今日の会場だよ」
――ギギギギギッ。
「「「「おお―――!!!!」」」」
四人が声をあげる。
「二回目でも豪華~!」
「うんうんっ」
「……………?二回目……?」
「あっ!いや、その……。昔、アメリカで洋館に行ったことがあって。二回目でもやっぱり洋館は豪華だな~って言ったんだよ~」
「……?そう」
アヤちゃんが言い訳をする。苦し紛れの答えだったけど、ナイスだよ!
「さあ、お祝いお祝い!」
「そうですね。こっちがイスですよ」
私は今にもスキップしそうになった。私は皆にサンタの帽子を配る。皆でつけたらパーティーの雰囲気になりそうだからね。
「服発売お祝いパーティー兼、クリスマスパーティースタート!!」
〇◇◯◇
最初にしたのが、ケーキの食べ比べ。市販のケーキと高級なケーキを食べ比べた。全員、「美味しい!」と喜んでくれた。私の家のシェフはやっぱりすごいなと思う。社長令嬢なのが誇らしい。最後に、プレゼント交換。音楽に合わせてプレゼントを回した。私は心春先輩からブレスレットをもらった。奥深い緑色で、大人っぽい。これから、ずっと、大事にしたいな。ちなみに、私のメモ帳は水井先輩に当たった。
「さ、最後にもう一つ!」
「もう一つ?」
心春先輩が不思議そうな顔をした。
ここで、サプライズだ。サプライズなんてしたことないから緊張する。皆で描いた似顔絵付きの手紙を隠し持つ。
「「「「心春」」先輩」」
皆で声をそろえて、手紙を差し出した。
「「「「今までありがとうございました!」」」」
「えっ……………………!?」
心春先輩が息を飲む。
「はい、これっ」
「これ…………手紙!?今読んでいいの?」
「「もちろんです」」
いきなり鈴木さんとハモった。私と鈴木さんは一歩、相手と距離を置く。
「円菜…………和希……」
心春先輩がつぶやく。
目を細め、手紙を見ていた。思いが伝わると良いな。私はファッション部のおかげで変われた。それは、心春先輩の優しさのおかげ。
「アヤちゃん……悠斗…ありがとう!!」
心春先輩がこちらをパッと向いた。
その衝撃で涙が花弁のように飛び散る。
「私、高校では服飾の専門学校へ行くの。その前に、ファッション部で仲間の大切さを学べたよ。ありがとう」
「いいえ~」
心春先輩は本気でファッションデザイナーになろうとしている。そんなに頑張れるってすごい。
「私達にファッション部は任せてください!」
「円菜に言ってもらえると、安心するわ。まぁ、悠斗が部長なのが心配だけど」
「えええ~~~!」
「フフフフ」
何だか、この雰囲気安心する。
「そろそろ行こうかっ」
そ、そう言えば!これから一つ行くところがあるんだ!
「「「「「YOU NOの服売り場!」」」」」
〇◇◯◇
冷たい風が吹く。
――ヒュ――――ッ。
まるで、風は、私の肌を凍らせたいみたいだ。
でも、気持ちは暖かい。これから見れるんだ。私達がデザインした服が……。実感がわかない。紙に描いた服が本物になるなんて。 考えただけでも、泣きそうになる。
「ここね」
「うんっ!」
『YOU NO』と言う看板が私の視界に入りこんだ。今から、見られるんだ……!
――カラカラカラッ。
扉が開き、一目散に服売り場へ向かう。どこにあるか分からない。ただ、感に頼って、行く。
「これだ――――――!」
水井先輩さんが叫ぶ。
私は急いで水井先輩さんのもとへ行く。ほ、本当だ!
『中学生が手掛けた!お嬢様風ワンピース』
と言うタグが付いている。
これが私達のデザインした服だ。本当に形になっている……!私は手で口を隠した。
私達がデザインした、私達の
「売られてる……」
「すっっっごい!」
「ええ」
まるで
「これ、私買うわ」
心春先輩がそう言って、服を持つ。
「アヤも~」
アヤちゃんも服を持つ。私と水井先輩さん、鈴木さんは買わない。でも、自分が買うみたいに嬉しかった。帰ったらお父様に買ってもらおう。 そう考えていたら、心春先輩が、
「あれ?」
と間抜けな声を出した。
どうしたんだろう……?指された方向を見てみると、十数人の女の子が私達のデザインした服を持っている。買ってくれて単純に、幸せ。…ではなかった。買っている人たちの鞄には『I LOVE♡NAGISA』と言うキーホルダーが付いていた。
もしかして……。
「「凪咲さんのファン!?」」
そう、心春先輩をいじめてた、凪咲さんのファン。
買ってくれている?決して安いものじゃない。そこそこのお値段だ。つまり、心春先輩の事を応援してくれている……!?
「突然だけど…最近、いじめも少なくなってきたわ」
「「「「!!」」」」
良かった。いじめが全て無くなった訳ではなさそうだけど、とにかく、良かった!
「凪咲ファンは心春先輩にあこがれてるのかもね~」
「そう、かしら」
「はいっ!きっとそうですよ!」
私はうなずく。こうして無事にサプライズパーティーは幕を閉じたのだった。
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