第十一話 「かねて」と「かねて」

 あれから、二か月。

 私はニコニコしながら、道を走る。

 今日は服デザインについての授業を受けた。

 土曜日と日曜日だけなんだけど。

 そして、今、帰っている途中。


 「フフフーンッフフフーン」


 私はすごく上機嫌。

 ついつい鼻歌になっちゃう。

 スキップで道を進んでいったら……。

 私の足がぴたりと止まった。

 服屋さんのショーウィンドーを見つめる。

 YOU NOの服屋さんでは無い。

 ただ、少し気になった。

 ここに置いてある服はどんだけ苦労どりょくして作られたんだろう。

 そう、フッと思った。


 「…………」


 私はショーウィンドーをずっと見る。

 本当にファッションデザイナーになるんには、大学に通わないといけない。

 私達は企画で、デザインさせてもらっているだけだ。

 どれだけ勉強をして、どれだけ考えて、売られている?

 今着ている服だって。

 時間を使って、考えられたさくひんなんだ。

 服は当たり前の物じゃない。

 自分達で服をデザインするための授業をしていく中で、分かってきた。

 私は体をUターンさせる。

 お父様は「勉強をするなら」とデザイン授業を受けさせてくれているだけで、帰りが遅くなったらか・く・じ・つに怒られてしまう。

 早く帰ろう。

 ……と、思ったら。


 「マドッチ~!」


 おなじみの声がした。

 水井先輩だ。

 何を言われるんだろう?

 そう考えながら振り返る。

 

 「水井先輩……………………とアヤちゃん、鈴木さん!?」

 「驚くべし~驚くべし~。驚く寿司~マグロ~」

 「アヤが来て驚いた~イェイ!!」

 「……………………」


 陽気な水井先輩とアヤちゃん。

 その隣に、爪をいじっている鈴井さん。

 雰囲気が明らかに違う。

 私はどんな表情をすればいいか分からず、苦笑いを返した。

 

 「で、心春、もうすぐ卒業でしょ?何か出来ないかな~」

 「っていう話をアヤ達でして~」

 「ちょっ!STOP!アヤ達じゃ、カズキングも入っちゃう。ほら、カズキング『いやー』な表情してる!で、俺達二人の名前決めたデショウ」

 「そうだった!」


 二人の自分世界マイワールドの話が進み、混乱する。

 鈴木さんが苦々しい表情をしているのは、カズキングと呼ばれたからじゃないかな…!?

 しかも、二人で名前まで決めているんだ……。

 どこをツッコめばいいか、分からない。

 心春先輩がいないとすんごく大変。


 「「ハ―ヤ!!」」

 「その名前、言ってるんだったら、僕帰りますよ。要件だけ言って下さい」

 「そうそう、そうだった!ごめん!!帰らないで」

 「あのね、心春の卒業パーティーをしたいんだ」


 アヤちゃんが耳元でささやく。

 その内容に私と鈴木さんは目を見合わせた。


 「心春先輩は二学期末で退部されるんだって。悠斗が言ってた」

 「そうそう!ちょうど、俺達の服が発売されて二日!しかもその日は子どもの大好きな◯◯◯◯◯!『」心春卒業パーティー』と『服発売お祝いパーティー』と『◯◯◯◯◯パーティー』をしたいんだっ」


 「と」が多すぎて混乱してしまった。

 つまり、一回のパーティーで三つのことをするのか……。

 なるほど……。

 とても良いアイディアだ。


 「いいですね」

 「賛成だよっ」

 「なら、計画立てちゃお――!」


〇◇◯◇


 私達はモクモクと作業を進めた。

 お父様にも、休日の許可をもらえて、しかも部屋も借りることに成功!

 私はルンルン気分。

 あーちゃんがパーティーの詳しい企画をしてくれたんだ。

 市販ケーキと高級ケーキの食べ比べ。

 プレゼント交換。

 そして、心春先輩へのお手紙を渡す。

 心春先輩には『服発売お祝いパーティー』とだけ伝えている。

 別に嘘をついている訳ではない、けどサプライズだ。

 私は部屋に飾りつけをする。

 

 「やっぱり豪華だね~想像はしていたけど~」

 「イッツア、コウキュウ~!」

 「……手を動かして」


 なんにせよ、大きいから飾りつけは大変。

 しかも、時間は限られている。

 の定番カラーが部屋を彩る。

 壁の所々に金色の風船を吊るした。


 「すっごくきれー」


 メイドさんや明日香さんも手伝ってくれている。

 少し背伸びをし、『SELEBRETE』という文字を付けた。

 お母様が張り切って買ってくれたんだ。


――「孝一郎が許してくれて良かったわね。SELEBRETEはお祝いと言う意味よ。楽しんでね!!」


 お母様は少し興奮したように言った。

 私よりお母様の方がパーティー、楽しみにしてるんじゃ……!?

 

 「すっごいジョーデキ~!!これで心春もダンシング!」

 「「「?」」」


 ダ、ダンシング……?

 踊りの事だよね?

 心春先輩、踊れるんだ。

 なんて、勝手にうなずいていたら……。


 「心春がダンスするぐらい喜ぶって事!心春、ダンス出来ないしっ」

 「もっと端的に、分かるように述べてください」


 水井先輩の言葉に鈴木さんがすかさずツッコむ。

 ちょっと怖い言い方だけど、言っていることはすごく合っている。

 自分世界マイワールドって大変だ。

 そんなことを考えながらも、無事飾りつけ終了。

 さあ、当日、頑張ろう!


〇◇◯◇


 

 「ハッピークリスマス~」

 「あら、円菜。挨拶ありがとう。でも……メリークリスマスが適切ね」

 「間違えました……!ごめんなさい…」

 「いいの、いいの」


 今日は十二月二十四日。

 服発売お祝いパーティー兼、クリスマスパーティー兼、心春先輩の卒業パーティーの日だ!

 私は謝ったけど、ルンルン気分。

 お母様がくれた特注品のサンタ服を身につけて、私ははにかむ。

 ああ、喜びが爆発しちゃいそう。

 あーちゃんとのクリスマス会以来のクリスマス会。

 だから、余計に楽しみ。


 「早く、部屋案内してよ~」

 

 アヤちゃんが言う。

 本当はアヤちゃんも部屋を知っている。

 なぜなら、飾りつけをしたから。

 でも、心春先輩にはそれを知られると、「私だけ何で呼ばなかった?」と言う疑問が浮かび上がるので、私とメイドさんがやったと言う設定にした。

 ちなみに、心春先輩の卒業パーティーと言うのは最後まで言わないことにしている。

 

 「早く~早く~速く~!新幹線は速い!!」

 「あっ、分かりました。開けてもらっていいかしら?」

 「「ええっ、もちろん。円菜様」」


 私が尋ねるとメイドさんが答える。

 玄関がギギギッと開いた。

 私は部屋まで案内する。


 「ここが今日の会場だよ」

――ギギギギギッ。

 「「「「おお―――!!!!」」」」


 四人が声をあげる。


 「二回目でも豪華~!」

 「うんうんっ」

 「……………?二回目……?」

 「あっ!いや、その……。昔、アメリカで洋館に行ったことがあって。二回目でもやっぱり洋館は豪華だな~って言ったんだよ~」

 「……?そう」


 アヤちゃんが言い訳をする。

 苦し紛れの答えだったけど、ナイスだよ!

 冷や汗がすーっと無くなっていく。

 私は安心のため息をついた。

 

 「さあ、お祝いお祝い!」

 「そうですね。こっちがイスですよ」

 

 私は今にもスキップしそうになった。

 私は皆にサンタの帽子を配る。

 皆でつけたらパーティーの雰囲気になりそうだからね。

 

 「服発売お祝いパーティー兼、クリスマスパーティースタート!!」


 〇◇◯◇



 まずは心春先輩に完成した洋服を見せてもらった。

 自分達が想像して作った服が売られているのは、とても感激的。

 売り場の人によると、大好評なんだって。

 次におこなったのが、ケーキの食べ比べ。

 市販のケーキと高級なケーキを食べ比べた。

 全員、「美味しい!」と喜んでくれた。

 私の家のシェフはやっぱりすごいなと思う。

 最後に、プレゼント交換。

 音楽に合わせてプレゼントを回した。

 私は心春先輩からブレスレットをもらった。

 奥深い緑色で、大人っぽい。

 これから、ずっと、大事にしたいな。

 ちなみに、私のメモ帳は水井先輩に当たった。


 「さ、最後にもう一つ!」

 「もう一つ?」

 

 心春先輩が不思議そうな顔をした。

 ここで、サプライズだ。

 サプライズなんてしたことないから緊張する。

 皆で描いた似顔絵付きの手紙を隠し持つ。

 

 「「「「心春」」先輩」」


 皆で声をそろえて、手紙を差し出した。


 「「「「今までありがとうございました!」」」」

 「えっ……………………!?」


 心春先輩が息を飲む。


 「はい、これっ」

 「これ…………手紙!?今読んでいいの?」

 「「もちろんです」」


 いきなり鈴木さんとハモった。

 私と鈴木さんは一歩、相手と距離を置く。

 

 「円菜…………和希……」


 心春先輩がつぶやく。

 目を細め、手紙を見ていた。

 思いが伝わると良いな。

 私はファッション部のおかげで変われた。

 それは、心春先輩の優しさのおかげ。

 

 「アヤちゃん……悠斗…ありがとう!!」


 心春先輩がこちらをパッと向いた。

 その衝撃で涙が花弁のように飛び散る。

 

 「私、高校では服飾の専門学校へ行くの。その前に、ファッション部で仲間の大切さを学べたよ。ありがとう」

 「いいえ~」


 心春先輩は本気でファッションデザイナーになろうとしている。

 そんなに頑張れるってすごい。


 「私達にファッション部は任せてください!」

 「円菜に言ってもらえると、安心するわ。まぁ、悠斗が部長なのが心配だけど」

 「えええ~~~!」

 「フフフフ」


 その日のサプライズは無事幕を閉じたのだった。

 

 

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