第5話 本当の姿 ②

今回の視察は順調に進んだ。

都市部の商家の視察だから危険も少ないしね。

前回の地方視察では移動距離が半端無かったからな。定番の魔物退治も加わったし。

今日は道中一度だけ狼型の魔獣に襲撃されたが、ハルさんに瞬殺されてたし。


「そういえぱ、ハルさんはマリーが連れてきたんだよな?」


「そっ、そうでしたっけ?」


明らかにギクッとした様子を隠せなかったマリー。後でキチンと聞いてみよう。

ハルさん程の実力者は、理由無く辺境の貧乏男爵家にお抱えされるような人材とは思えないしね。


「間もなく今夜の宿に到着します。」


僕達の会話が聞こえているだろうに、いつもと変わらぬ様子で声掛けしてくるハルさん。


「ありがとう。ところで、ハルさんは気になる男性とかはいないのかな?」


「シン様、貴族家嫡男が平民女性にその様な事を尋ねるのは、愛人になれと誘ってるのと同じですし、そう思われますよ?」


「うん、誘ってるんだど。」


「………………………………………嬉しく思いますけど、本気ですか?」


「本気だよ。何か気になることでも。マリーの許しが必要だとか?」


「………………………………………着きました。その件に関しては、マリーに聞いて下さい。」


否定しないのは、そういう事なんだろうな。


「だそうで。マリー、今夜教えてね。ハルさんが平民かどうかも含めてね。」


「………………………………………いつから気が付いていたのですか?」


「最初からだと伝えたよね?」


一瞬固まった後、僕には聞こえないくらいの溜息をついた後に、


「あ〜、隠し事は無駄な様ですね。今夜でよろしいのですね?」


「ああ、マリーの事も含めて、楽しみにしてるからね。」


御者席のハルさんも、微かな溜息をついた後に宿前の馬車亭に着けて階段をドア前にセットしてから、


「朝九つの鐘の前にお迎えに上がります。マリー様、私の事はお気になさらずにお話下さい。」


あ〜、『マリー様』か。


荷物は最後の商家の視察待ちの間に届けておいた様で、僕達が降りるとすぐに片付けて言いたい事を伝えると去っていってしまった。


「出来ればハルさんも一緒に話しを聞きたかったな。」


「シン様、それはご無理ですね。ハルは専属メイドではないので正式に愛人として認められるまでは夜の同衾は出来ませんからね。」


「そんなつもりは無いんだけどな。」


「世間はそうは思いません。勿論、私もハルもですよ。」


まあ、そんなもんなんだろうね。


「マリー、食事の予定は?」


「今晩は会食の予定は入れておりません。」


「じゃあ、久々に二人きりで外食しようか。隣の満腹亭でいいかな?」


「………………………………………一度だけ二人きりで食事をしたのを、覚えてらっしゃるのですか?」


忘れるわけ無いんだけど。

マリーも覚えていてくれたようで、嬉しいよ。

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