第7話 本当の姿 ④
マリーが宿の部屋に戻って来たのは、半時程過ぎた頃だった。
思ったよりもかかったな。
暗くなる前に帰れて良かった。
「連絡はついたのかな?」
部屋へ招き入れて、ベッドの縁に腰掛けるように指示して座らせてから聞いてみた。
「………………………………………はい、私の判断で話して良い事になりました。」
座らされた場所が場所だけに、今までに無いくらいに緊張しているようだ。
もしかすると、このまま僕に押し倒されるかもと思っているのかな。
この後の話の行方によっては、そのつもりだけどな。
「では、全部話せると?」
「国家機密に関する事はお話出来ませんが。」
「では、僕がマリーとハルについて知っている事から話そうか。」
無言で頷いたマリー。
心なしか顔色が良くない。
この後の話いかんでは、彼女は任務に失敗したと判断されるだろうからな。
その場合、彼女の身分に関わらずハル共々処分されるかもしれないからな。
「今から五年ほど前から、隣国のヤマトノクニの第七王女マリア様の動向が途絶えている。」
マリーが息を呑むのが、ハッキリと感じられた。
マリー、そこで反応するのは不味いよ。
まあ、これで彼女が特殊訓練を受けていないと判断出来るけど。
これが全て演技だとしたら、僕は喜んで君に騙されてあげるよ?
「更に、三年前に、マリア様付きだった筆頭姫騎士の子爵令嬢ハルナ様の消息も不明になっている。」
俯いたまま、きつく手を握りしめて、青白い顔で、長く溜息を吐くマリー。
「………………………………………続けて下さい。」
かろうじて聞き取れるくらいの小さな声で、話すマリー。
「知っての通り、ヤマトノクニでは貴族は『成人の儀』を十二歳で受ける。マリーがヤマトノクニの王族だとしたら、スキルを我が国の貴族学校在学中に使えるのは有り得る話だよね。」
マリーはもう返事すら出来ずに俯向いたままで固まっている。
「ハルもヤマトノクニの貴族令嬢だとしたら、筆頭姫騎士だったとしたら、平民らしからぬその能力も納得出来るよね。」
「………………………………………私の負けですね。」
「僕はマリーに勝つ事など望んでいないけどな。そうだとしても、二人とも彼の国で伝えられている容姿と大幅に異なるのが不思議でな。」
「何がお望みですか、シン?」
「何も。今まで通りが、希望だな。」
「………………………………………その希望、叶うとお思いですか?」
「何故そう思う?」
「私が今のお話の通りに報告を上げたら、私とハルは任務を失敗したとして処分されるでしょう。」
「させないよ。もしその様な話になったらヤマトノクニを潰すから。」
「何故にその様な事を、私にお話になるのですか?」
マリーは僕に『潰せるのですか?』とは聞かなかった。それだけの力が僕には有ると知っていたのだろう。
「マリーとハルが僕に必要だから。」
話し始めてから、初めて僕と目を合わせてくれたな。
「………………………………………どうして、私とハルナを必要とするのですか?」
ハルではなく、ハルナと呼んだね。
ここで全てを認めるのは悪手だと思うよ。
曖昧に済ませるのが、生き残る可能性を高める事も有るんだからね。
何処で情報が漏れるかもしれないし。
「僕が生き残る為に、マリーとハルが必要だからさ。」
そう、マリーとハルは、『鍵』になる。
どちらが欠けても僕が生き残るのは厳しくなるだろう。
「と言う訳で、マリーからも話してくれるかな?本当の事を、マリーの『本当の姿』を。」
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