第6話 本当の姿 ③
ここは満腹亭の名の通りに、量の多い食事が出来る。量だけでなく味も満足出来る流行りの食堂だ。
まだ夕食のピーク前なので、空席もチラホラある。
予約無しでも個室に案内されるのは、領主の特権だろうけど。
「二人きりは三年ぶりだな。」
「……………………………………………そうですね。覚えていてもらって嬉しいです、シン。」
「忘れる訳が無いだろう?」
「……………………………………………それでもです。女としては嬉しいですよ。」
初めてマリーと会ったのは、貴族学校入学式翌日のクラス分けテストの時だった。
貴族とその推薦者は無条件で入学できるので、入学試験組以外が受けていた。
試験監督をしていた当時3年生のマリーが派手にミスをして、僕が助けたお礼に食事でもと誘われたんだっけ。
「マリー、今思えば、あれはわざとだろう?」
「……………………………………………何の事ですか?」
「クラス分けテストの試験監督でミスをして、俺の気を引いただろう?」
「……………………………………………バレましたか。」
「ああ、気が付いたのは今だけどな。」
「……………………………………………今、お話しましょうか?」
「駄目だ。ここでは遮音結界が張れないからな。」
「私、出来ますけど。」
やっぱり出来るんだ。
「駄目だ。ここで遮音結界を張ると目立つからな。逆に盗聴してくれと言ってるようなものだぞ。それに、自分しか信用しないようにしているから。今はな。」
「『今は』ですね。シンも、出来るのですね?成人の儀の前なのに。」
「ああ、色々出来るぞ。と言う訳で、この話は今夜にするぞ。」
「はい、楽しみです、シン。」
僕も楽しみだぞ。マリーがどこまで本当の事を話してくれるのかを。
僕が『全部知っている、わかっている』とマリーとハルが知ったら、どんな表情をするのか、本当に楽しみだ。
食後のお茶を飲みながら昔話になったんだけど、ここでは緑茶が頼めるので一部のお茶マニアには人気があったりする。
渋味と苦みがあるので苦手な人は多いんだけど、僕が急須から淹れるお茶をマリーは平気な様子で飲んでいた。
「僕が二年に進級する時に専属メイドを募集して、マリーが応募してきた時は驚いたぞ。辺境の弱小男爵家子息に仕えようとする令嬢が学内から出るなんて。」
「私もまさか採用されるとは思いませんでいたよ。卒業後の進路が決まらなくて、困っていましたから。」
マリー程の成績と容姿で、進路が決まらない訳がないんだがな。
彼女が他の応募者を妨害してたのも知ってたからな。
「マリー、これから先は、本音で話してくれるかな。全部本当の事を話すのに誰かの指示が必要なら、今すぐに確認しておいてくれ。」
あからさまに動揺し始めたマリーを見ながら、返事を待つ。
「……………………………………………知っていたのですか?」
「ああ、連絡用の魔道具かな?時々誰かの指示を受けてただろう。」
「その通りです。聞こえていたのですね。この後少し一人にさせていただけますか?」
「先に帰ってるから、待ってるぞ。 」
本当は、『知っていた』んだけどな。
呆然とするマリーを残して、僕は一人で部屋を出た。
このままマリーとハルが逃げ出さなければいいんだけどな。どうなるかな。
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