第13話  望んだ事とは違うと思うのですが

「………………………………おはようございます。お迎えに上がりました。」


一夜明け、お迎えのハルがマリーの様子に絶句した後に僕に声掛けして。


「ああ、おはよう。荷物を頼むぞ。」


無言で佇むマリーを置いて、部屋の荷物を運ぶように指示してからマリーの手を取り馬車に寄せてステップに押し上げる。


「………………………………あっ!」


「ん、どうした?」


まあ、聞くまでもなく、『そういう事』なんだろうなとは思うが無視して席につかせて一度降りようとすると、マリーは恥ずかしそうに腹回りを押さえながら睨むように顔を向けられたが無視して宿の主に部屋を汚した事の謝罪を済ませる。


「ベッドを汚してしまった。請求を送ってくれ。」


「いえ、それも込みの宿代となっておりますゆえ。」


遠慮したのか本当なのか判断がつかなかったので、ハルと目を合わせると頷いて指を一本見えないように出してきたので金貨を一枚宿主に見えないように渡して、


「世話になった。また頼むぞ。」


恐縮する宿主をおいて、馬車に乗り込みマリーの隣に座り腰に手を回して引き寄せる。


「シン様、先程の件ですが、ベッドの汚れから察するに一枚は一枚でも金貨ではなく銀貨ですよ。それにまだ朝ですからね?控えて頂けますか?」


ハルから苦情が上がってしまった。


「そうなのか?まあ部屋は見た通り酷く汚したからな。」


「そうですよ、シン。私はまだそのせいで痛みが酷くて辛いのですから控えていただきたいですね。」


「あれ?マリーが望んだ事だぞ。」


「………………………………それはそうですが、違うと思うのですが。」


「何処が違うのか、今夜から毎晩確かめさせてもらおうか。」


「ぁ………………………………ええ?」


御者台のハルが叫び声を上げて振り向いて。


「ハルも今夜から私の寝室で控えるように命ずる。屋敷に着き次第二人共執務室まで来るように。契約書を書き換えるぞ。」




※※※※※※※※※※




昨夜の事を思い出すだけで、身体の奥底から震えが溢れ出してきて止まらない。

命じられた事とはいえ、いざそうなってみると躊躇してしまって。

とはいえ、これで一部とはいえ任務は達成した。残念ながら事前に解除した避妊魔法はシンにより掛け直されてしまった。

何故気がつかれてしまったのかはわからなかったけれども。

それでもシンと共にすごした月日と昨夜の交わりを思えば幸せなのかなとは思える。


記憶に無いとはいえ、一度は死姦され純潔は失われていて。

自身のスキルで元の身体に復活させたとしても周りの目はそうでははなくて。


本来ならば婚姻前に純潔を失った令嬢は自死を選ばざるを得ないが、王家に敵対する侯爵家を取り潰すきっかけとなった事でハルナとアキツと共に罪一等減じられたけど。


昨夜の交わりで、偽りの身体とはいえ純潔の証は得られて、シンからの信頼は得られたとは思うけど。

このままハルナとアキツと共にシンの子を得て祖国へ連れ帰ることができれば任務達成だろうけどそれで良いのだろうか。

昨夜シンは、生き残る為には私とハルナが必要だと言ってくれた。

何と戦うのかは教えてもらえなかった。

決めるのは生き残ってからにしようかなと、下腹を手のひらで押さえ、暖かな気持ちになりながら決心した。

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