第12話 本当の姿 ⑤

「はい、陛下。承知しました。」


「うむ。以後王女として扱う事は出来ぬ。

非公式にだが処遇が決まるまでは現状維持とさせる。くれぐれもこの事は漏らさぬようにな。」


お父様、いえ王様の執務室。

本来ならば私を断罪すべきこの場だった。

罪と言えるのかどうか疑問だが、成人の儀において一時的とはいえ行方不明となった私達三人は、もう貴族令嬢としての価値は無くなったと言っていいだろう。

少なくとも、もう政略結婚の駒として使われる事は無い。

事実、死姦とはいえ失ったものは大きすぎた。

自決するように命じられなかっただけでも良しとするしか無いだろう。


あの後、私とアキツが得たスキルでハルナも無事に『復活』させる事が出来た。

アキツとハルナもそれぞれの家で自死を命ずる事は許さず私と同じ様に処遇せよと王家から通達されたと教えられたが、それは単に私達が得たスキルが国にとって貴重だったからだろう。


私の光と空間の二重スキル。

アキツの聖スキル。

ハルナの剣聖スキル。


それぞれ貴重なだけでなく最上位スキルだった。

この三人のスキルを失わせようとした事だけでも侯爵家取り潰しの理由としては充分だったろう。

それ程我が国では人材が不足していた。


神官長取り巻きの上位神官二人は、神官長と同じく一族郎党処刑された。過去に成人の儀で暗殺に携わったり黙認した事が判明した神官は引退者も亡者も含めて全てそれらの者の罪状に応じて本人のみから一族郎党まで処刑された。

本人のみならず家族まで処分された人数が多数に上ったこともあって、教会の内部が風通しが良くなったのは良い事なのだろう。





私達三人の処遇が決まったと王宮に呼び出されたのは、事件から一月余り過ぎた頃だった。


「第七王女マリア、隣国へ留学を命ずる。」


王の傍らで宰相が私に告げた。


「公爵家次女アキツ、教会にて聖女として修行を命ずる。子爵家三女ハルナ、第七王女付きの騎士を命ずる。」


「はい、承知しました。」


私が代表して返事をする。

アキツは聖スキルを教会で磨いていた。

ハルナは騎士団で修行中で、既に中堅騎士を圧倒する強さになっていた。

三人それぞれのスキルに応じた配置と言えるだろう。


「王女の留学は来春からとなる。アキツとハルナはそれまでは修行の上、共に着いて行くように。

なお、これから話す事は他言無用だ。3人共『王家の影』所属とする。」


アキツとハルナが息を飲むのが聞こえた。

間者として隣国へ行く事になるからだ。

私は考え得る最良の処遇として予測していたけど。

事が公になった場合を鑑みると、もう国内に置いておけない以上は三人とも国外へ出すしか無いのだから。




※※※※※※※※※※




「シン、今私が話せるのはここまでです。」


「………………………………………もう一つだけ、教えてくれ。僕のお付きメイドに志願したのは、『王家の影』の指示か?」


「いえ、私の判断です。」


「………………………………………わかった。では、覚悟は良いか?」


シンに抱き寄せられ、ベッドに押し倒される。


「………………………………………よろしいのですか?私が嘘をついているとは思わないのですね?それに、私は『初めて』ではありませぬが。」


生きている内では、初めてだけど。


「騙されたとしても良いだろう。ここで僕に抱かれなければ任務失敗と見なされるのだろう?」


「失敗して亡命するのも良いかなと、思い始めておりましたが。」


いずれにしてもシンの元に留まれるのだけれど。


「明日はハルも抱くからな。」


「………………………………………私から伝えます。」


「いや、僕から伝える。」


「私、初めての様なものですから優しくお願いしますね………………………………」


「ああ、見せてもらうよ。マリーの、マリアの、本当の姿を。」

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