第11話 マリア ④

「動くなと言っている!」


私の眼の前では切り落とされた首から噴水のように血飛沫を上げソファにもたれ掛かる侯爵様と、その隣ではらわたをぶちまけて縦に二つに分かれてピクピクと震えるホルン様が見えていた。


「………………………………………何故?」


「それは寧ろ私が聞きたいものだな。今までの遣り取りは全部記録させてもらった。」


「っ!わっ、私共は脅されていたのです!お赦しを。」


「アレの何処が脅されていたというのだ?王女始めとする貴族令嬢に対する暗殺未遂だ。しかも死姦までされている。例外なく処罰されるだろう。一族郎党、斬首だな。覚悟しておけ。兄弟姉妹と直系親族が対象になる。」


………………………………何か手段は無いものか。このままでは破滅しかない。

そうか、そうだ!


「………………………………マリア様、今、死姦とおっしゃられましたか?」


「ああ、神官長様は良いご趣味をしていらっしゃる様だな。そこのお二方も同罪だ。覚悟しておく様に。」


………………………………………そうだ。三人とも、死んでいるんだ。

声を掛けられた二人が、示し合わせた様に動いた。合わせて私も気を溜めて一気に放出する。


「この死に戻り共めっ、消えてなくなれっ!」


振り返り三人で合わせて放った気を受けたマリア様とアキツ様の姿は血塗れで、はらわたが千切れた儀式の時の姿そのままに見えた。二人の下半身は私達が放った精が垂れ落ちて汚されたままで、消滅を信じて疑わなかった私達は油断していた。


「………………………………それだけか?情け無いな。」


光が収まると、平然と佇むマリア様とアキツ様。


「なっ………………………………馬鹿な!」


「あ〜、馬鹿とは何事だ。『暗殺未遂』と言っただろう?これ以上罪を重ねるのか、王家に対する反逆罪も加わったな。これで親族全てが処刑対象になったな。」


「まさか………………ゾンビではないのか?そんな、まさか!」


「私の祖母のスキルをご存知無いようだな?」


「…………………………………まさかっ!」


「そのまさかだよ、『死に戻り』では無いぞ?

お前の可愛い孫娘と一緒に、私自ら斬首してやる。覚悟しておけ。」


懐の暗器を取り出そうと手を動かそうとしたが取り出せなかった。視線を切るのは悪手だとわかっていても胸元を見下ろすと、手首が血を吹きながら転がり落ちるところだった。

続けて襲い来る、激痛。

両隣では同じ様に腕を切り落とされた部下が崩れ落ちて泣き叫びながらのたうち回っている。


「今は殺さないよ?覚悟しておくように。」


………………………………舌を噛み切ろうとした所で、自決用の毒を、自爆用の武器を仕込んでおくべきだったと思った所で意識が途絶えた。





意識を取り戻したのは、処刑台の上だった。

目の前には、これでもかと並べられた生首。

隠居した両親、兄弟姉妹達、息子娘達。


「お前のお陰で王家に仇なす侯爵家を取り潰す事が出来た。せめてもの情だ、処刑は直系親族と兄弟姉妹のみとなり非公開となった。親族の晒し首も中止となり晒すのはお前だけになったぞ、喜ぶが良い。」


そう告げながら、血濡れた細身の剣を両手持ちしたマリア様が近付いてくる。

後ろから着いてくるアキツ様とハルナ様は手に何かをぶら下げていた。


「ほら、ついさっきまで無様に泣き叫んでいたぞ?お前に最後まで恨み言を喚きながら抵抗してきたな。我々は死姦なぞせんから安心してあの世で会うが良い。」


眼の前に置かれた、目を見開いたままの生首。

私の、可愛い、二人の、双子の、大事な大事な、孫娘達。


「うっ、うわぁぁぁぁぁ〜つっ!」


「今更だぞ?」


言い捨てたマリア様が剣を振るうと、地面に転がったのだろう私の首が空を向いて見たと同時に意識が途絶えた。

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