第22話 遠き声
雪が深く積もる頃、私はまた17日を迎えようとしていた。
突然、いつもとは違う胸の苦しさが襲い、そのまま意識を手放した。
寝込む度、意識を持って時折は目を覚ましていたのだが、今回は目を開けることすらままならない。
きっと本来はすぐそばでの出来事なのだろう、皆の慌ただしい声や足音が遠くに聞こえる。
泣きながら私の名を呼ぶ声。
口を開こうにも出るのは荒んだ息づかいだけ。
そんな中でも、リアムの声はしっかりと届いていた。
恐らく夜通しでいつものように看病しているのだろう。
涙声で私の名前を呼び、祈るように、願うように私へと言葉を向けている。
「ラファエル様、どうかお願いです。あと2年頑張ってください。僕が・・・僕が助けますから、どうかもう少しだけ・・・もう少しだけ頑張ってください」
そう繰り返すリアムに、朧げな意識の中、あと2年とは何の事なのかと思い、ふとリアムの過去の言葉を思い出す。
魔女の力を開花させるには、13歳という年齢が必要だと言っていたことを・・・。
「ラファエル様、僕をお側に置いて下さい。他には何も望みません。決して僕を置いて、1人で逝こうなどと考えないで下さい」
嗚咽に混じるリアムの声に、自分の今の状態を察する。
そして、今世は成人すら迎える事はできないかも知れないという悲しみと、何故かもうこれが本当に最後の人生かもしれないという安堵があった。
そして、そのまま深い眠りへと吸い込まれていった。
どのくらい日が経ったのか、やっと目が開いたと思ったら目の前の人物に目を見開く。
それはリアムではなく、懐かし人達の心配そうな顔だった。
王都の学院に通っている兄2人だ。
その事が、朧げに感じていた想いを確信へと変える。
何故なら学院では寮生活で、基本学業が終えるまでは専念してもらう為に帰省は認めれていない。
帰省が認められるのは、成人を迎えた後か卒業後、そして家紋に何かあった時のみだ。
そう、家紋に何かあった時・・・それは、きっと私だ。
いつもは手紙のみで帰省する事ない2人が、こうして顔を揃えて帰省するというのはそれを意味する。
声が出ない私を悟り、兄達が自分の容態を説明してくれた。
高熱がなかなか下がらず、肺炎を起こしたそうだ。
一時は危なかったが峠は無事越したと、安堵の表情を浮かべて話してくれたが、私はそれだけではないのだと悟った。
それから数日、私をリアムと共に兄達は変わるがわる看病をしてくれた。
朝は、一番上のバルドルが、昼には次男のヘリオスが、そして夜はリアムが看病をする。兄達は家にいる間、私の事業にも力を貸して入れていたらしい。
三人の看病のおかげか声も少しずつ出せる様になり、回復へと向かっていた。
体が起こせるまでは、ソフィアやカルデアさえも見舞いは許されていなかったが、ようやくベットにもたれられるくらいに回復したその日、別々に来ると私の負担になるからと、ソフィアとカルデアを呼び、一度で見舞いを済ます事になった。
私の顔を見るなり涙を流しながらベットのそばまで駆け寄る2人に、優しく微笑む。後ろでは、リアムと兄達がその光景を微笑みながら見守っていた。
たわいもない会話に花を咲かせ、微笑みあった後、私はふと口を閉じて俯く。
そして、吹っ切れたように顔を上げ、父を呼んで欲しいと願い出た。
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