第7話 それでも言えない秘密

リアムから話を聞いてから、ぼんやりと考え込む日が増えた。

数字と宝石・・・・寝込んでいた時に見たあの夢の、あの言葉が気になっていた。

そして、それをリアムに聞けなかった。

それと同時に、リアムから問われた事に、私は答えられず話を逸らし、無意識に距離をとってしまう自分に気づいていた。


「以前から気になっていましたが、何故、ラファエル様はそんなに魔女について知りたいのですか?もしや、僕が感じるラファエル様の悲しみが原因ですか?」

「それは・・・・」

「何か・・・記憶をお持ちなんでしょうか?」

そう尋ねられて、私は何も言えず、ただ黙ったまま俯いてしまった。

「僕は・・・ラファエル様から魔女の気配は感じますが、それが何の魔法なのか知りません。ただ、いつもラファエル様が諦めにも似た悲しみを抱えている・・・それだけは、わかります。そばにお仕えするようになって、時間が経てば経つほど、その悲しみが深いことを知るんです。僕には・・・お話できませんか?」

リアムは悲しみにも似た声で、私へと問いかけるが、口が開こうとしなかった。

言えば、何かが狂ってしまうのではないかという、恐怖にも似た不安が込み上げていたからだ。

もしかしたら、リアムに聞いた事すら間違っていたのかもしれない。

今世の最期をと側に置いていたが、自分が思っている以上に、リアムに情が湧いたのかもしれない。

もし、この事が歯車を狂わせ、リアムまで呪いにかかってしまうのではと怖かった。

「ただの・・・ただの趣味だ。無気力なのは性格の故だ。気にする事はない。

それより、今日はソフィアが来る日だな。茶菓子の用意を頼む」

私の答えに、不服そうな表情を浮かべたリアムだったが、何かを察してくれたのか、すぐにいつもの笑顔を浮かべ、会釈をして部屋を出ていった。


「ラファエル様、リアムと喧嘩でもしたんですか?」

ソフィアがこそり、私に耳打ちをする。

私はふっと笑みを溢し、気にする事ではないと返した。

「少し・・・不貞腐れているだけだ」

「・・・・そうですか」

「あぁ。少しばかり、私が秘密事を持つと、教えてくれないのかと不貞腐れるのだ」

「秘密ごと・・・・確かにラファエル様は、秘密が多そうですわ」

「何故、そう思う?」

「ラファエル様は多くを語りません。無口な性格だと思っていましたが、時折、ラファエル様が見せる表情が、どこか遠い所を見ていて、それでいて、それですら見る事を諦めているような表情をするんです。まるで、この世の全てを諦めているかのような、そんな顔をするんです。だから、近くにいる私達はそんなラファエル様を見る度、少し寂しくなるんです」

ソフィアはそう呟きながら少しだけ俯くが、しばらくすると顔を上げ、まっすぐに私を見つめた。

「ラファエル様はどう思っているのか存じませんが、私とリアムは、ラファエル様の友人だと思っています。仲の深さではリアムには敵いませんが、私もラファエル様の身を心から安じているのです。ですから、ラファエル様が話したくなったら、いつでも私とリアムが聞きますので、1人で重荷を背負わず、いつか心内を話してくださいね」

力強く話す彼女の言葉に、胸が小さく、そして慌ただしく鳴る。

ダメだとわかっていても、例え、昔ほど苦しくないとしても、勝手に鳴る胸の高まりに苦笑いするしかなかった。

「そうだな・・・リアムは私の従者ではあるが、友であり家族だ。そして、ソフィアとも性別を超えた友だと思っているよ。ありがとう」

そう言って微笑むと、ソフィアは小さく微笑んだ。

そんなソフィアを、その後ろで話を聞いていたのか同じように小さく微笑むリアムを見て、ふと心に言葉が浮かぶ。

それ故に、話すことはできない・・・・・。

その言葉が、私の周りに見えない壁を作っていた。

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