第8話 迎える13の歳
「おはようございます。今日はいい天気に恵まれましたね」
リアムとは違うメイドが、ベットの傍でそっと私を起こす。
「もう、朝か・・・」
眩しい日差しに、重たい瞼を開けながらゆっくりと体を起こすと、すかさずメイドが手を差し伸べ、体を支えてくれる。
「ご生誕、おめでとうございます」
メイドは起き上がった私に深々と頭を下げながら、そういった。
私は目を細めながらお礼を述べると、いないはずのリアムを自然と探す。
「リアムは・・・今日、帰って来るはずだったか?」
「はい。パーティまでには戻られるかと・・・」
「そうか・・・」
私はベットから出ると、メイドからガウンを受け取り、それを羽織る。
そして、ぼんやりと窓の外を見つめた。
13・・・・今日で13になるのか・・・・
ふとリアムの言葉を思い出す。
人間には意味嫌われる数字・・・・だが、魔女にとっては力を得られる好奇な数字・・・何度も繰り返す人生で、これといった何かがあったわけではないが、その数字の意味を知った今世では、いろんな意味で特別を感じた。
「ラファエル様、誕生日おめでとうございます」
そう話しかけてきたのは、丁寧に挨拶をするソフィアだった。
「あぁ。来てくれたのか?」
「もちろんですわ。大事な友の誕生日ですもの」
ソフィアはそう言って微笑むと、少し椅子に座らないかと尋ねてきた。
それに応え、私が腕を突き出すと、ソフィアはその腕に自分の手をそっと重ね、歩き出した。
椅子に腰を下ろすと、ソフィアのそばにいたメイドから小さな箱を受け取り、私に差し出す。
「プレゼントです」
そう言って差し出された小箱を開けると、綺麗な銀色の髪結の紐が入っていた。
「高価な物はすでに沢山頂いたと思うので、私は、ラファエル様の髪色に似合う紐を選びました。ラファエル様の純白の長い髪には、瞳の色と同じシルバーが似合います」
「ふっ、白髪ではなく純白と言うのは、ソフィアだけだな」
「ラファエル様は髪色は、歳を召された白髪とは全く異なります。純白という言葉がラファエル様の為にある様に思えるほど、とても綺麗なのです。その髪色が、瞳の色と相まってとても・・・とても綺麗です」
ほんのり頬を染め、左頬にエクボを見せながら、ソフィアは微笑む。
その表情に私は息を呑む。
それは、今まで私に向けたことのない表情で、私が欲しくてたまらなかった眼差しだった。
あれほど、何度も繰り返し求めたこの眼差しが今、自分に向けられていることに、嬉しいはずなのに不安が勝ってしまう。
「ソフィア様、僕がいない間に媚を売るとは・・・・」
突然後ろから声がして、持っていた箱にある紐をヒョイっと摘む手が見えた。
慌てて振り向くと、リアムが自分の目の前に紐をぶら下げながら、ジロジロとその紐を見つめていた。
「まぁっ!久しぶりに会えたと思ったら、何ですの!?」
ソフィアはリアムを睨みつけながら、紐を返せと文句を垂れる。
そんなソフィアを気にも留めず、リアムは椅子の後ろに周り、私の体の向きを変えた。
「これはもうラファエル様の物なので、返しません」
「えぇ、それはラファエル様のよ。なのに、何故、貴方が取り上げるの?」
「こうするためです」
リアムはそう言うと、どこから出したのか手にブラシを持ち、あっという間に髪を束ねた。
右肩から垂れるように結い上げた髪に、ソフィアからの紐がキラキラと光る。
「まぁ・・・・本当にお似合いですわ」
ソフィアはうっとりするような表情で私を見つめる。
「ラファエル様は何をしても、何を召されても、元々が綺麗なので当たり前です」
「それはそうですけど・・・・なんか私のプレゼントを貶されている様に感じますわ」
頬を膨らませ睨むソフィアを、リアムが鼻で笑い、それを見たソフィアはまた怒りに輪をかける。
そんな2人を見ながら、私はそっと髪に結われた紐を触った。
以前もソフィアとは友として生きた事はあるが、ここまで仲を深めた事はなかった。
私が距離をとっていたのもあるが、ソフィアも令嬢として、淑女としての距離を保っていたからだ。
だが、今世はかなり違う。
こんなに砕けた姿のソフィアを今まで見た事がない。
それに・・・私にはどの人生にもちゃんとした友と呼べる者はいなかった。
田舎貴族とはいえ、私が持つ伯爵という肩書きと、領地が収める豊富な産物のおかげで、王都の貴族となんら変わらない程の財力があった。
それに群がる者、妬む者、貴族の世界では当たり前の様な光景ではあったが、損得でしか測れない、そんな友しかいなかった。
私もそれが当たり前かのように生きてきた。
だが、この2人を見ていると、嬉しい反面、不安もある。
その不安が現実にならなければいいが・・・そんな思いを残し、パーティを終えた。
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