第13話 想い

邸宅に戻り、父にカルデアを紹介した後、別邸へと案内する。

事前に話してあった提案書の中に、別邸の二部屋の使用許可をもらっていたので、事が進むのが早かった。

一部屋をカルデアに、もう一部屋を私の執務室兼会議室にする為だ。

今まで平民街の小さな家に住んでいたカルデアは、見るもの全てが恐れ多いとぼやく程、顔を上下左右に忙しなく動かしていた。

部屋を見た時は、気を失いかけたほどだ。


「別宅も庭も自由に出歩いていい。ただ、本邸には父の仕事関係の人がよく出入りするから、申し訳ないが、余程の事がない限り出入りは控えてくれるか?」

「は、はい。先程、伺っただけでも、あまりの豪華さに気を失いかけました。ここでも落ち着かないのに、本邸などには行けません」

オドオドとそう答えるカルデアに、私はふふっと笑みを溢す。

「本邸はともかく、ここには早く慣れてくれ。綺麗な物を見るとアイデアも湧く。特に庭園にある花園は、母が力を入れている分、私から見ても見事だ。仕事の合間に見に行くといい」

そう言いながら、執務室代わりの部屋にある長椅子に腰を下ろす。

そして、カルデアとリアムに腰を下ろすよう促す。


「リアムはもう紹介したが、私の友でもあり、専属従人だ。少し生意気な所はあるが、とても頼りになるし、頭も回る。今後は私とリアム、カルデアで進めていくが、もう1人、友である女性も紹介しよう。カルデアの作品には女性の意見も必要だからな」

「わかりました!」

意気揚々と答えるカルデアに対し、ずっと無言のままのリアムを横目にため息を吐く。

「リアム、君とは後で話をするが、今は気持ちを切り替えてくれないか?」

「・・・・・」

「私の友であるなら、力を貸してくれ。私が床に伏せる時は、君とカルデアが協力してくれないと困るのだ」

「・・・・わかっています」

やっと口を開いたリアムに、今度は安堵のため息を吐く。

「恩にきる。カルデア、私は月に一度は寝込む日がある」

「え・・・・?」

「決まって17日前後だ。長引く時もあれば、すぐに良くなる時もある。まぁ・・・それ以外にも体調を崩すことはよくあるのだが、もし、寝込んでここに来れない場合は、リアムと協力して仕事を進めて欲しい」

私の言葉にカルデアは目を潤ませながら、何度も頷く。

「リアム、これからは私が寝込む時は、つきっきりにならずにカルデアの事も気にかけてやってくれ」

「・・・・はい」

「よし、今日はこれで解散としよう。カルデア、今日と明日はここに慣れる為にも、ゆっくり休んでくれ。後日、契約書と事業内容を話し合おう」

「わかりました。ラファエル様もゆっくり療養してください」

カルデアの言葉に頷くと、私はリアムを連れ、本邸へと向かう。


「リアム、色々と気になるだろうが、私を信じてついて来てくれ」

後ろからトボトボと歩くリアムに、そう声をかけながら歩く。

「僕はいつでもラファエル様を信じています。ですから、何があってもついて行きます」

「そうか・・・」

「・・・・ラファエル様、どうして突然事業など・・・体の負担になりませんか?」

リアムの問いかけに、足を止め、振り返る。

「無理ない範囲でするつもりだ。事業についてはカルデアの家で話した通りだ。ずっと考えていた。だが、今まではそれを実行する程の気力がなかったのだ」

「では、何故、急に・・・・?」

「そうだな・・・誕生日を迎えた夜、夢を見てな」

「夢・・・ですか?」

「私の姿が煙のように消えて無くなる夢だ」

「・・・・・」

「そんな夢を見た朝、自分の姿を鏡で見て、正夢ではないかと思ってしまったんだ」

「そんな・・・・」

「ずっと感じていたんだ。どんどん薄くなるこの色素・・・昔はそうでなかったのに、今では両親に似てもにつかない。このまま存在ごと薄く、そしていづれは消えてなくなるのではないかと思っていた」

そう言いながら、私はまた前を向いて歩き出す。

「だから、何か形を残しておきたいと思ってな・・・できれば、人に喜んでもらえる様な物を手がけて、それが残れば未練はない」

繰り返す人生の中、病気や事故で最期を迎えた事は2回だけ・・・後は、ずっと誰かの手にかかり死んだ。

今世では人に恨まれたり、妬まれたりして死を終えるより、笑顔を向けられて幕を閉じたい。

それが、また繰り返すかもしれない人生に、きっと何か影響を与えてくれるかもしれないという、私の小さな希望だ。

また無言になっているリアムに、私は再度言葉をかける。

「リアムが言ったではないか」

「僕が・・・・?」

「あぁ。私を苦しみから解放してくれると・・・私は、その言葉を信じてみようと思っているんだ」

そう言って微笑んだ私に、リアムも小さく微笑み返してくれた。

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