第14話 確信

3日後、ソフィアが訪ねてきたタイミングで、私は別邸でカルデアに紹介しながら契約書を交わした。

ソフィアは終始、カルデアのデザインを褒め称え、歓喜の声を漏らしていた。

そんなソフィアに、カルデアは顔を赤ながらも嬉しそうにデザインの説明をしている。

そして、試作品としてデザイン画の中から数点作り、宣伝を兼ねてソフィアに着けてもらう事になり、色々と話を進めていく。

翌日、材料の発注を終えた私は、糸が切れたようにリアムとカルデアの目の前で倒れてしまった。

もうすぐ17日だという事を、すっかり忘れていたのだ。


誕生日パーティを終え、慌ただしく事業を進めたせいか、今回の熱はなかなか下がる事はなく、話すこともままならない息苦しさに、目を閉じている事が多かった。

だが、それでも時折目を覚ますと、いつもはベッタリと付き添い看病しているリアムの姿がないことに安堵していた。

私との約束を守り、カルデアの元へ通っているのだと悟っていたからだ。

それからまた目を閉じ、次に開ける時には決まってリアムがいた。

そのタイミングで、カルデアの報告を始める。

「今日も今日とてメソメソしてうざかったです」

その報告に、力無く微笑みながら口をぱくぱくさせると、リアムはすぐに理解して言葉を繋げる。

「ソフィア様が手伝ってくれて、レース編みのチョーカーは完成してます。今は宝石を付けたチョーカーと、ミニブーケの考案を庭師と相談している所です」

リアムの言葉に、私はまた小さく微笑む。

「ラファエル様、ソフィア様がとても心配されています。カルデアも心配からメソメソばかりしていて・・・それに、僕も心から早く治って欲しいと願っています。ですから、今は何も心配なさらないで、体を治す事に専念してください」

リアムはそう言いながら、私の手を取ると、優しく摩る。

ぼーっとする意識の中、その光景を見ながら自分の中にあった疑惑が確信へと変わっていく。

愛おしそうに私の手を見つめるその目も、壊れ物を扱うかのように労わりながら摩るその手も、どれもがそれ裏付ける物だった。

いつからリアムは、私に対してこうした目を向けていたのだろうか・・・?

リアムは・・・間違いなく、私に想いを寄せている・・・・。

どうすればいいのだろうか・・・・。

そう考えが浮かぶものの、私はまた意識を飛ばしてしまう。


10日後、ようやく熱が下がった私は、思ったより体力が奪われた事を知る。

それに、気のせいかと思っていたが、瞳の色素が薄くなってきた。

父親似のエメラルドグリーンの瞳・・・・これだけは、濃ゆいまま残っていたから、バンティエラの家系だと周りに知らしめる事ができていた。

だが、鏡に映った瞳は少し青みがかったミントグリーンだ。

かろうじて父に似た男らしい端正な顔立ちも、寝込んでばかりいるせいか、歳を追うごとに女性のような細さを増してきた。

麗しい・・・・そんな言葉が当てはまるが、私にとっては違和感でしかない。

自分であって自分ではない・・・そんな姿に、虚しさを覚える。

何故、今世はいつになく私に虚しさを与えるのだろう。

もう、死に対する恐怖などはない。

それでも、私という存在がなかったかのようになるのは嫌だ。

私はここにいる。

ここで生きている。

間違った生き方をしようとも、ここでもがきながらも懸命に生きている。

なのに・・・・

誰にも言えない不安と悲しみが、諦めと同時に虚しさとなり、心を蝕んでいった・・・。


杖をつきながら、リアムに寄り添ってもらい、別宅へと向かう。

ふと気付けば、私より頭一つ分小さかったリアムが、いつの間にか肩を並べていた。

いつも一歩後ろで歩いていたからか、その事に今更気付き、ふっと苦笑いをする。

きっと私は、さほど背は伸びないだろう。

そのうち、背も越され、見上げる事になるだろうな。

そう思いながらも、先日のリアムの眼差しを思い出す。

いつからだなど、背が並んでいた事すら気付かない私に答えなど出るわけない。

どんどん時は過ぎていくのだ。

それに伴って皆、心も体も成長していくのは自然な事・・・。

その過程で誰かに恋をして、愛を囁き合う。

私には叶えられない事だと、繰り返す人生でわかっている。

そう思うと、ほんの少しリアムが羨ましくも思う。

例えそれが私に向けられていて、受け取る事ができない想いだとしても、この先、私よりずっと長生きするであろうリアムの中では、ただの通過点でしかない。

あんなに想い焦がれた私の恋心でさえ、手放してしまえば通過点でしかなかった。

短い人生だと知っているからこそ、私はそれに執着していたのかもしれない。

辛くとも手放せる恋だと知らずに・・・。

リアムにとっても、私に対する想いはそうであって欲しい・・・そう願わずにはいられなかった。

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