第12話 交渉
「お、お話とは・・・・?」
席につくなり、口を開いて尋ねてくるカルデアに優しい笑みを返す。
「実は、あなたのデザイン画の評判を偶然耳にしまして、ぜひ、力添えをしたいと思い、訪ねて来ました」
「ぼ、僕のデザイン画ですか?い、一体どこで・・・?」
「裁縫工房も私の父の工房です。どんな話も耳にするのです。あなたのデザイン、見せてもらえますか?」
私の言葉に警戒した表情を見せるが、彼はおずおずと棚から数枚の紙を出し、テーブルに広げた。
「あぁ・・・やはり、どれも素敵だ」
「あ、ありがとうございます・・・」
初めて褒められたのか、ほんのり顔を赤らめ、俯く彼にまた優しく微笑んだ。
「カルデア様・・・」
「様だなんて、ぼ、僕は平民です。カルデアと呼んでください」
「わかりました。では、カルデア、私は父に了承を得てこれから事業を始める」
その言葉に驚いた表情を向ける。
それも当然だろう。私はどう見ても子供だ。体が弱い分、同じ年頃より小さい。
それでも、中身は幾度となく人生を繰り返した大人だ。
脅すような言い方ではなく、宥めるように言葉をかける。
「街でも私の評判は聞くであろう?」
「・・・・はい」
「ふっ、素直でいいな。そう、私は呪い云々ではないが、体が弱い。それに外見も普通の人とは違う。だが、心持ちだけは父譲りで強いと思っている。そんな私はこの先いくつまで生きられるか、わからない。だからこそ、形を残したくて父を説得したのだ」
「そんな・・・僕より若いのに・・・」
自分の心内を曝け出す事で、相手は心を許す。
子供の姿の私が説得するにはこれしか方法がない。
「こんな弱い私を慈しんでくれる家族に何か残したいのだ。そして、ここにいる私を慕ってくれる友にも・・・」
そう言いながら、私はリアムに視線を向けるが、何故かリアムは私を睨みつけていた。
おや?と思いながらも、気を取り直してガルデアへと視線を戻すと、ガルデアは目を潤ませ私を見つめていた。
少し、同情を煽りすぎたかと思ったが、ガルデアが心を許したのを見計らって一気に話を進めた。
「ちょうどその時、君の話を聞いた。そして、今、このデザインを見てこれだと思ったのだ。ガルデア、どうか私に力を貸してくれないか?私が必ず君の才能を世に出して見せる」
力強くそう言い切ると、ガルデアはすぐに頷き、私の手を握った。
「こんな私が力になるのであれば、いくらでも貸します。ですから、体を大事にして、一日でも長らく生きてください」
いつの間にかポロポロと涙を流すガルデアに、本当にこの性格が彼を苦しめていたのだと悟る。
「では、早速身支度をしてくれないか?」
「・・・・え?」
「君の住まいを邸宅へと移す。離れにはなるが、そこでデザインを考えながら、試作品を作るんだ」
「そ、そんな、急に・・・仕事もありますし・・・」
「仕事の事なら、父に話して退職させてもらう。もちろん、デザインを書いている間は賃金を出すつもりだ」
「で、でも・・・」
「言ったであろう?私はいつどうなるか、わからない。だから、少しもの時間がもったいないのだ。それに、君の才能を独占したい。私とバルディエラで専属契約をするのだ」
その言葉に、ガルデアは引っ込んでいた涙をまた流しながら、掴んでいた手を更にギュッと握る。
「そんな悲しい言葉を連ねないでください。わかりました。すぐにでも準備します。僕はあなたを信じてついて行きます」
そう言ってガルデアは慌ただしく準備を始めた。
その事に安堵しながらも、こうも騙されやすい彼の今後が心配でため息をこぼす。
すると、後ろから痛いほどの視線を感じ振り返ると、リアムがまだ睨みを利かせてこっちを見ていた。
その睨みの意図が分からず私が微笑むと、ふんと鼻を鳴らしリアムはそっぽを向いてしまった。
私は訳がわからないまま、苦笑いするしかなかった。
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