第17話 販売会

仮店舗に着くとオープンの一時間前だと言うのに、すでに列を作っていた。

その列には平民と貴族家の召使が混ざっている。

貴族の令嬢や令息達は、自宅にいるか近隣のカフェにでも待機しているのだろう。

今日の販売会には宝石の類などは用意しておらず、リボン調になったものやレースなどがメインだ。

列の横を通り過ぎ、店舗に入っていく。

その後ろからヒソヒソと私の話をしている声がするが、慣れた雑音だと聞き流すした。

だが、隣ではリアムはムッとし、カルデアは小さく身を縮こませていた。

その姿に、私はリアムに笑みを、カルデアには肩に手を置き宥めると、前日に運び陳列した商品達を眺めながら、ここまで来れたことにホッと安堵のため息を吐く。

そして意を決したように顔を上げると、リアムとカルデア、そして数人の雇った従業員に声をかけた。

「さぁ、記念すべき瞬間だ。顔を上げにこやかに迎え入れよう。ここまで来れた事を誇りに思い、自信を持って扉を開くのだ」

私の言葉に皆が頷く。

その表情を確認した後、1人の従業員が扉をゆっくりと開ける。

私は軽く会釈をしながら、言葉をかけた。

「お待たせしました。ザインへようこそ」

満面の笑みを浮かべて、外にいる客を招き入れると、小さく上がる歓声と共に中へ客が入ってきた。



「ラファエル様、片付けは任せて邸宅へ戻りましょう」

椅子に腰を下ろし休んでいると、リアムが手を差し伸べ声をかけてきた。

私の体調を考え、今日は三時間だけの販売会の予定だったが、二時間も立たないうちに完売となった。

元々初日は品数を少なめで用意し、希少さをアピールするつもりだったが、ものの見事に店内はガランとした姿を見せた。

「そう・・・だな。少し・・・いや、かなり疲れたかもしれない」

リアムの手を取りながら、掠れた声で返事をするとカルデアが心配そうに覗きこんできた。

「ラファエル様、お声が・・・それに、少し顔が青ざめています」

「あぁ・・・こんなに喋ったのは初めてかもしれない。色んな人に会ったのも久しいな・・・」

ため息と一緒に疲れが漏れる。

体の弱い私の担当としては、今後のオーダーなどが主でずっと腰を下ろしている状態だったが、滅多に社交の場に顔を出さない私を、貴族達が物珍しい物でも見るかのように、ワラワラと周りを囲んでいた。

その中には父達が世話になっている人達もいて、時折席を立ち挨拶を交わした。

それでも売り込みは念入りにし、デザインについてはカルデアを交えて交渉する。

特に宝石などについては、私の方が詳しかったので他の者に変わる事なく、説明をし続けた。

そのせいで声は枯れ、疲労が蓄積されて、体がゆらゆらと揺れる。

「今夜は熱が出るかもしれませんね」

リアムは私の肩を抱き、支える。

その隣でカルデアが私の荷物を運ぶ。

「・・・情けないな。この先が思いやられる・・・」

申し訳なさに、小さくそう呟くと2人が同時に顔を横に振った。

「十分すぎるほどです。ただ、少し無理をされただけです」

「そうです!ラファエル様がいなかったら、貴族達のオーダーは取れませんでした。ラファエル様しか出来ない事をやり遂げたんです!私はラファエル様を本当に尊敬します!」

2人の励ます言葉に苦笑いしながらも、ゆっくりと待機していた馬車に乗り込む。

「リアム、今日は他の従業員も帰してやってくれ。片付けなどは後日でいい。今日は皆でもう休むとしよう。そうしてくれると、私も少し気が楽だ」

「かしこまりました」

リアムはお辞儀をすると、すぐに店の方へ駆け寄って行く。

その間にカルデアが、私の膝にショールをかけてくれる。

「カルデア、今日はよくやった。これかも頼むぞ」

「はい!ラファエル様の為にも一層努力をします!」

「フッ・・頼もしいな」

そう言い終えると、私はゆっくりと目を閉じた。

それからはどう帰ったのか記憶がなく、次に目を開けた時にはベットの上だった。

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