第2話 また出会う縁

「ラファエル様、伯爵様より一時間後に庭園に来るようにと申しつかっております」

部屋に入ってきた執事に、小さくわかったと返事をして、呼んでいた本を閉じる。

窓の外へ目を向けると、綺麗な青空が広がっていた。

そうか・・・今日だったか・・・

そう思いながら、ぼんやりと空を眺めていると、リアムが空になかったカップに紅茶を注いでくれる。

「君は、また森に行くのかい?」

「はい。これもラファエル様の為です」

「君は本当に意味のわからない事を口にするな」

そう言いながら、淹れたての紅茶を口にする。


彼はリアム・シャロイン。今年で9歳になる。

彼曰く、魔女の末裔でウィッカと呼ばれる魔女らしい。

能力が低かった彼は、魔女の森を追い出され、1人あの場所で彷徨っていた。

どのくらい彷徨っていたのか、自分自身の事を忘れかけてた時、私に出会った。

その瞬間、忘れかけていた自分自身を思い出したそうだ。

そして、まだ霧がかかっていて明白には思い出せないが、何故か私を知っていると言っていた。

過去をどんなに思い返しても、私は彼の事を知らない。

そもそも彼が過去を知るわけがない。

だが、不思議と違和感がないのも事実だ。

それは彼がウィッカである事と関係しているのかもしれない。


私が住むこの領地は、代々受け継がれてきた領地で農業が盛んだ。

決して広いとは言えない領地ではあるが、領民思いの歴代当主達のおかげで年々住民が増えていて、貴族達も静養地として別荘を立てている。

その数が増えるほど、街も栄えていった。

そんな領地にも、一箇所だけ領民達さえ近寄らない森がある。

昔から魔女が住んでいると言われている森だ。

そんな森にリアムは度々1人で行っていた。

魔女の言い伝えはこの領地の歴史と等しく、白魔女と黒魔女がいると言われている。白魔女は人間に好意的で、幸せな魔法を生み出すと言われているが、黒魔女は人間を嫌い、呪いのような類を生み出すと言われている。

昔は白だの、黒だのは付いておらず、人間と仲良く共存していた。

だが、この国で戦争が起きた時、魔女達は力を貸してくれたが、その力に恐れを成した一部の人間達が魔女狩りをした。

その時に多くの魔女が死に、この領地の森に逃げ込んだという。

人間を恨むようになってしまった魔女が、黒魔女へと変化したのはその時からだ。

当時の当主は、魔女狩りに反対していたのもあって、哀れみもあり、暗黙で森に住む事を認めた。

そして、住民にもこの森に立ち入る事を禁じた。

黒魔女が生まれた事で、互いに関わらない事が得策だと考えたからだ。

それに、何より傷付いた心を静かに癒して欲しいという気持ちもあった。

そんな歴史を持つこの領地では、魔女の物語がいくつもある。

だから、リアムがウィッカだという事に何の疑問も持たなかった。

それに・・・私のこの呪いは何かしらで魔女の怒りを買ったか、誰かに頼まれて呪いをかけたか、いずれにせよ、私にも関わりがあると思っている。


「今日は森に行くのはやめて、私のお茶会に付き合ってくれないか?」

突然の申し出に、リアムは目を丸くする。

「会わねばならない人がいるのだが、気が進まないのだ。だから、気が知れている生意気な君の顔を見ていれば、少しは心が落ち着く気がするのだ」

そう言って微笑むと、リアムもニコリと笑みを返す。

「そういう事であれば、残りましょう。僕はラファエル様の友としてここへ置いてもらって居るのですから・・・・」

「ほら、友などと図々しいにも程がある。君は私の従人であり、遊び相手だ」

「それも立派な友です」

「ふっ、本当に生意気だ」

「・・・・ラファエル様」

「なんだ?」

「人生とは些細な事で運命が変わります。例えば・・・」

リアムは言葉を止め、スプーンを持ったかと思えば、それをポトンと落とす。

「いつも完璧でいるラファエル様が、こうしてお茶会でティースプーンを落とす・・・それだけでも、別の方向へと進むのです」

そう言ってリアムは、落としたスプーンを拾うと、私に微笑んだ。

「・・・・ふっ、何を言っているのか・・・私より二つも下の君が人生について語るとは・・・世も末だな」

そう言いながら笑うも、時折、確信をつくようなリアムの言葉に私はため息をつく。

そんな事は知っている・・・

私は何も試みてきた。だが、結局は何も変わらず死を迎える・・・。

何度繰り返そうと、この虚しさからも、忌々しい呪いからも逃れられない・・・。

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