第10話 存在

昨夜の話を思い返しながら、ため息を吐く。

何故、リアムがそこまで私に忠義を尽くすのか、わからないからだ。

それに、最後に言ったリアムの言葉達・・・そして、リアムの行動・・・・

あれが、ただの敬愛を意味するのか疑問に思っていた。

もしかするとリアムは・・・そんな考えが浮かび上がるが、打ち消すように首を振る。

例え、そうだとしても、私には受け入れる事はできない。

リアムの身分とか男だからは関係ない。

私には時間が限られている。

それがわかってて、始めるべきではない。

残していく者より、残される者の方が痛みが強い。

だからこそ、あえて気付かないフリをした方がいいのかもしれない・・・。

そんな思いから、また小さくため息をついた。


「お父様、お話があります」

誕生日から数日が経ったある日、私は意を決して父の執務室へと向かった。

そこにはちょうど母もいて、どうやら休憩がてら茶を飲んでいた様だった。

突然現れた私に、2人は驚いた表情を見せたが、それはすぐに慈しみの表情へと変わる。

「どうしたの?」

綺麗な青い髪を耳元に掛けながら、母は私に薄い茶色の瞳を向けてくる。

「お前がここに来るとは珍しいな」

父は茶色の髪に少し癖毛か入っている。それでも端正な顔立ちでグレーに似た薄い黒目は代々受け継がれている色だ。

そんな2人を見ていると、今の自分が異質の物に見える。

だが、2人の愛情はいつも変わらなかった。

そして、2人が互いに慈しむ姿も変わらない。

それを見て育ったから、私はそんな姿を当たり前に受けれる物だと思っていた。

私は2人の向かい側に腰を下ろすと、真っ直ぐと父へ視線を向ける。

「私に少しばかり援助をしてもらえないでしょうか?」

突然の申し出に、2人は持っていた紅茶を皿に置き、まじまじと私を見つめる。

私はすぐに言葉を繋げた。

「事業を始めたいと思うのです」

「急にどうしたの?」

「以前から考えていた事がありまして、それを始める準備をしたいのです。これが提案書です」

そう言いながら、持ってきた書類をテーブルに並べる。


提案した事業は二つ。

一つは布製品だ。過去で学園に行くために王都へ行った時、数ヶ月前から流行り出したというチョーカーとコサージュを目にした。

それは、次第に爆発的な人気を出し、王都での流行りのドレスがどんどんスタイリッシュな軽い物に形を変えて行った事で、沢山宝石をつけたりする事もなくなり、シンプルなチョーカーの模様を変えたり、宝石をつける事でおしゃれを楽しんでいた。

恋人同士では相手の女性に合わせた色の小さな宝石をつけて送る事で、自分の想い人だから手出しをするなと言う威嚇の意味でも使われた。

そして、それは貴族の間だけではなく、平民の間でも流行った。

宝石などなくても、紐や布切れがあれば、簡単に自分達でも作れるからだ。

貴族達には高級な飾りや模様を付け、平民達には材料として布や網紐などを売ていた。

そして、コサージュは主に男性から支持を得た。

パーティなどで胸元に挿したコサージュは、自分を華やかせるのに一躍買い、胸元から花香りがする事で、おしゃれ感を出した。

コサージュもまたいろんな意味を持ち、恋人がいれば恋人の色に合わせた物を、出会いを求める者は白い花を挿す・・・出会いが上手くいけば、そのコサージュを最後にプレゼントする・・・それは、愛を告白する意味となった。

過去に私は何度もソフィアにこれらを送った。

新しいデザインのチョーカーが出れば、すぐに取り寄せソフィアに送り、パーティやお茶会には自分の目の色の宝石を付け、ソフィアにつけるよう促した。

今思えば、そのチョーカーを首輪に見立てて、独占欲丸出しで押し付けていただけだったとわかる。

そんな苦々しい思い出が思い出され、ため息にも似た笑みが溢れた。


繰り返す人生で、変わらない流行りや世の中の出来事・・・変わったのは自分だけ・・・それが、自分の中にある孤独を増長させた。

まるで、私というちっぽけな存在は、この世界にいても、いなくてもいい存在だと言われている様だった。

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