第5話 夢の中の言霊

「ラファエル様とは、これ以上関係を築く事はできません」

声を荒げながら私を睨むソフィアがいた。

それは、1回目の人生でみた光景だった。

あぁ・・・私はまた熱に侵され、夢を見ているのだな・・・

そう思えるほど、この光景は寝込む度に繰り返して見ていた。

まるで、何かを思い出せと言っているかのように、これまでの人生を繰り返し夢に見る。

涙を目に浮かべ、必死に子爵令嬢らしき気丈さを保ちながら私を睨むソフィア。

あぁ・・・わかっている。

今までの私は浅はかで愚弄だった。

君を慈しむ事が出来ずにいた。

繰り返される人生で、どんなに君に許しを請いて寄り添ってみたが、形を変えて側にいても君は私を愛する事はなかった。

あの男を真似てみても、偽りの姿など君が愛してくれるはずもない。


2度目までは、彼に断罪された。

3度目は不慮の事故、4度目は病気で死んだ。

5度目の人生、私はソフィアと友になり、別の令嬢と婚約を結んだが、彼女は嫉妬深かった。

私なりに歩み寄ってはいたが、きっとソフィアを想う気持ちを捨てきれない、私の心中を悟っていたのかもしれない。

その人生は嫉妬に狂った彼女の手で人生を終えた。

6度目、流石に私は気が触れた。

届かぬ想いが何度も身を引き裂く。そして、別の人を選んでも私は幸せになれないという事実が辛かった。

その人生では、何度も自ら命を断とうと試みたが、どうやら自分の意思では断てないようだった。

その度に嘆き悲しむ両親と家族・・・薬漬けの毎日・・・結局、私は衰弱し、監視されながらも隔離された邸宅の奥の部屋で息絶えた。

7度目の人生は、酒に溺れ、荒れた人生を送った。

そして、酒場で酔って他の客と喧嘩して死んだ。

思えば、6度目と同じように今度こそはと死に急いでいたのかもしれない。

8度目は、意欲的に正しい道を歩もうと勉学に励んでみた。それが功を奏してか、最年少で王宮務めの管理職に就いた。

繰り返される人生で、8度目がやりがいのある人生だったのかもしれない。

だが、その才能を嫉妬した輩に結局は殺されてしまう。


何かの演劇のように流れる景色を、私は観客席から茫然と見つめる。

そして、8度目の最後を見終えた時、ふと後ろに誰かが座っている気配がする。

だが、何故か怖くて振り向けない。

(今世はこのまま死にゆくのか?)

耳元で聞こえる笑みを含めたその声に、背筋が凍りつく。

(これだけ何度見ても思い出せないのだな)

「なんの事だ?」

自分では声を発しているつもりだったが、その言葉は音をなしていなかった。

体を動かそうにも、何故かぴくりとも動かない。

(いつの人生でも会ってはいたのに・・・・そうだな・・・13・・・そして、宝石・・・これがヒントだ)

「待てっ!何のことだ!?」

やっと出た音の言葉と同時に、体が自由に動き、私は慌てて後ろを振り向くが、ただ黒いコートを着た後ろ姿が一瞬だけ目に入り、スッと消えていった。


「ラファエル様、目を覚ましてくださいっ」

聞き慣れた声に私は目を開ける。

目の前には心配そうな表情を浮かべるリアムがいた。

「リ・・・アム・・・か」

「はい。リアムです。ラファエル様、決して惑わされてはいけません。必ず僕が救って見せます」

リアムは刹那そうな声を出し、握っていた私の手にキスをした。

「何を・・・?」

「魔女の誓いは心臓を捧げるに等しいのです。あなたは僕の主・・・だから、僕の心臓を捧げます。他の誰でもない、僕の手であなたを救う為に、心臓を捧げ、そばにいると誓います」

そう言いながら私を見つめるリアムに、私は笑みを溢す。

「心臓など要らぬ。全く、本当に生意気だ。君は私より若い。寿命など誰にもわからないが、きっと私より長く生きる。死に急ぐ必要はない」

「いいえ。主の死は僕の死と同じです。もし、死が訪れる時は僕もお供します」

「要らぬ。君と死を共にするなんてごめんだ。生きながらえる人生があるのであれば、その人生を生きるんだ。私の為に、死を受け入れるな。わかったな?」

「・・・・・」

「わからないのであれば、この屋敷から出て行け」

「・・・・わかりました」

渋々小さく答えたリアムに、私はまた笑みを溢し、目を閉じた。

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