第27話 悔しい、許せない-エリーゼside-
お母様が、公爵の前で本日2度目の土下座をする。
「シュナイダー公爵閣下! 本日はエリーゼと偽って第二王女のフローラを嫁がせてしまったことを、謝罪に来た次第でございます!」
「その話なら何も謝る必要はない。フローラの前にその汚い面をこれ以上晒すな。今すぐにこの場から消え失せろ」
公爵は酷く殺気のこもった表情でそう言うと、土下座をしているお母様のドレスの裾を踏みつけながらわたくしたちの脇を通っていった。
「オスカー様!」
害虫が使用人の背後から飛び出し、あろうことかその冷酷公爵の胸へと飛び込んだ。
すると彼はその害虫をまるで大事なものの様にキツく抱きしめた。
「安心しろフローラ。お前は俺が絶対に守ってやる」
公爵は、わたくしたちに言葉を投げかけた時とは打って変わって優しいトーンでそう囁いた。
「何……それ……」
わたくしは酷く衝撃を受けて、怒りからか、嫉妬からか、身体がわなわなと震えるのを感じた。
「あんた害虫のくせに何でそんな大事にされてんのよ!」
わたくしがそう叫ぶと、お母様がいつものようにわたくしを叩こうとする。
しかし、わたくしが感じたのは頬の痛みではなく、肩の痛みだった。
「え……血……?」
気付けば何かがわたくしの肩を貫通しており、血がダラダラと流れ出ていた。
思考が停止する。
「アーデルハイト、次はお前だ。俺の魔弾に貫かれたくなくば、サッサとその“害虫”を連れて消え失せろ」
あの冷たい声が聞こえると同時に、わたくしの意識はそこで途切れた。
⸺⸺
「ん……」
あれ、ここは……アーレンス城。わたくし、帰ってきてたのね。って、そんなことより……。
「いったたたた……」
自室のベッドに寝かせられ肩の傷が雑に止血をされていた。
何よ、この城の人たち、誰も白魔法を使えないの? 役立たずばかりね。まぁわたくしも使えないけど。
それにしても、怪我ってこんなに痛いのね。思えばこんな大怪我人生で一度もしたことがなかった。まさか自分の身体から血が出てくるなんて、考えもしなかったわ。
サイドテーブルに置かれていた回復薬を手に取り、栓を外す。
クンクンと匂いを嗅いで、一口飲んでみる。
「うぇっ、不味っ……!」
回復薬ってこんな訳の分からない味だったのね。わたくしの綺麗な身体をあんな簡単に傷付けて、こんなものを飲ませるなんて……あの公爵、許せないわ。
それに、公爵に抱きしめられた時のあの害虫の幸せそうな顔。あいつあんな顔できたの?
拷問されてざまぁみろって思ってたはずなのに、実際拷問なんて全くされてなくて、ただただちやほやされていた。
だったら、わたくしが嫁ぎたかった。あっちの生活の方がよほど楽しそうだわ。
悔しい、許せない……。見てなさいよ害虫。害虫は害虫らしく駆除してあげるんだから……。
それにしても……回復薬、不味い……。
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