第15話 愛の分からない公爵様-オスカーside-

 今まで1日のうちに楽しみなど何もなかった俺に、楽しみなことができてしまった。


 それは、夕方任務や公務から屋敷に戻った際に、フローラの顔を見ることだった。

 すっかり健康的な身体になり、傷痕もほとんど消えた彼女の笑顔を見ると、なるべく早く帰れるように努めた甲斐かいがあったと、そう思えてしまう。


 1ヶ月が経った今でも、フローラは花の髪飾りを絶えず髪に付けていた。

 なぜか気恥ずかしくなり直接彼女へ渡すことはできなかったが、俺から彼女への初めてのプレゼントだ。

 エリーゼとかいうクズ女ではなく、フローラが来てくれた事への感謝のつもりで彼女をイメージして購入したものであったが、まさかここまで大事にしてくれるなど、当時は思いもしなかった。


 町でたくさんアクセサリーは買っているようなのに、髪飾りだけは買っていないようで、どうやらその花の髪飾りに合うアクセサリーや服を選んでいるらしいとのことだった。


⸺⸺夜。


 俺は屋敷の庭のベンチで、小さな箱を片手にため息を吐いていた。

 すると、ばあやがゆっくりとやってきて、俺の隣へと座ってくる。


「ばあやか……」

「フローラ様にも、ようやくばあやと呼び捨ててもらえるようになりました」

 ばあやはそう嬉しそうに答える。

「彼女に信頼された証拠だな」

「ええ、わたくしめもそう自負しております。ぼっちゃまは、ため息などつかれていかがなさいましたか?」


 ばあやにそう聞かれ、なぜか恥ずかしくなった俺は、顔が熱くなるのを感じながら、手に持っている箱を左右の手に行ったり来たりさせていた。


「そちらを、フローラ様へお渡ししたいのですか?」

 ばあやには、どうやら隠し事はできないらしい。

「あぁ……だが、なんと言って渡せば受け取ってもらえるのか、分からなくてな……」

「なんと言おうと、フローラ様は喜んでお受け取りになりますよ」


「そう、だろうか……。こんな愛想のない俺なんかに手渡されても、嬉しくなどないだろう……。そうだ、ばあや、髪飾りの時のように……」

 俺がそう言いかけると、ばあやは優しく微笑みながらもその続きを否定してきた。


「いいえ、もうばあやは中継役は致しません。髪飾りの時はぼっちゃまのそのお気持ちの変化が嬉しすぎて思わず中継役を引き受けてしまいましたが……。もうぼっちゃまは自分で渡せます。ばあやめは絶対に受け取りません」


「ばあや……頼む。ばあやだけが頼りなんだ……」

「いいえ、受け取りません」


「そ、そんな……まさかばあやに否定されるとは……」

「ぼっちゃま、これはばあやからの“愛”でございます。決して意地悪をしているのはございませんよ」


「それのどこが愛なんだ……。ただの意地悪ではないか……」

「いいえ、ばあやはぼっちゃまの幸せを一番に願っての選択を致しました。これは、愛です」


「俺には、そんな愛、理解できそうもない……」

「ご両親にこの屋敷へと放ったらかされ、一番分かりやすいご両親の愛をもらえなかったぼっちゃまにはばあやの愛は少々難しいかもしれません。ばあやの愛は理解してくれなくてもいいのです。ですが、フローラ様の愛はご理解できるはずです」


「フローラの……愛?」

 俺はまさかの言葉に首を傾げた。

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