第19話 ずっと渡したかった物
「フローラ。ずっとお前に渡したくて、渡せなかった物がある」
オスカー様は少しだけ身体を離すと、ローブのポケットから小さな箱を取り出した。
「まぁ、可愛いリボンが付いています。オスカー様の魔力もたくさん感じます……。これは、お部屋に飾っておく物でしょうか?」
私がそう言って首を傾げると、彼は思いっきり吹き出して大笑いをしていた。
「はははっ。フローラ……そう来たか。お前は本当に、いつも飽きない反応をくれるな……」
オスカー様はそう言ってまだ笑っている。
「お、オスカー様……笑っていないで教えてください……」
私が頬をぷくーっと膨らますと、彼は両手で私の頬を包み込み、ゆっくりとその膨らみを押しつぶした。
「フローラ、これはな、渡したい物が入っているただの“箱”なんだ。お前が気に入ったのなら、その箱も部屋に飾ってほしい。無意識だが、俺が魔力を込めてしまったのも事実だからな」
「この中に……入っているのですか?」
「そうだ。リボンを解いて開けてみてくれ」
「そ、そんな……こんな可愛く結んであるのに、解いてしまうのですか?」
「また後で、俺が同じように結んでやる。開けてもらえないと、それはそれで俺も悲しいのだが……」
「す、すみません! 開けさせていただきます」
あぁ、こんな可愛いのに勿体無い……。でも、オスカー様がもう一度結んで下さるみたいだし……。
ゆっくりとリボンを引っ張って解いていく。そして箱を開けると、中には更に箱が入っていた。
「この箱、ですか……?」
「いや、この切れ目から上に開けてくれ」
オスカー様は少し吹き出しながら言う。
「はい……あれ、少し固いですね……」
「なら、一緒に開けよう」
箱を握る私の手ごとオスカー様は両手で包み込み、彼が片手を引き上げると、固かった箱がパカッと上下に開いた。
「わぁぁぁ、指輪が挟まっています……!」
ピンクゴールドの可愛らしい色に、小さな宝石が埋め込まれ、何やら模様が描かれていた。
ギラギラと派手な装飾ではなく、落ち着いていてシンプルな物だった。
オスカー様はその箱のクッションにすっぽりとはまった指輪を抜き取ると、私の左手の薬指にゆっくりと差し込んでくれた。
ふと、そのオスカー様の左手の薬指にも、同じ模様のシルバーの指輪がはまっていることに気付く。
「お揃いの、指輪ですか?」
「フローラ、これは結婚指輪と言ってな。本来結婚をした時にお互いに左手の薬指に付け、生涯外さない物なんだ。お前がこの屋敷に来た翌日にはもう急いで作らせていたんだが、渡すのがこんなに遅くなってしまった……」
オスカー様はそう言って困ったように頭をかいていた。
「結婚指輪……」
私がその響きにジーンときて涙目で自分の薬指を見つめていると、オスカー様は自身の薬指を私の指へとくっつけた。
すると、指輪同士が隣り合わせになり、2つの指輪の模様が重なり合って、1つのハートの形を作り出していた。
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