第23話 ばあやのネタばらし

「ねね、フローラ。このキスマーク、あえて見えるような服を着て、オスカー様と朝食取ってみる?」

 レベッカがそう意地悪そうな顔をして言う。

「すると、どうなるの?」


「オスカー様の面白い反応が見られると思うんだけどなぁ……だって、オスカー様の愛情表現、自慢したいと思わない?」

「確かに……! うん、じゃぁ今日は少し胸元の開いた服にする」

 私もノリノリでそう返すと、ばあやが少し苦い顔をしていた。

「ばあやは知りませんよ……」


「あっ、それはそうと、気付いたら私の身体の古い傷痕、全部なくなってたんだよ? 2人共何か知ってる?」

「あれ、フローラ知らなかったんだ。もう結構前からなくなってるよ?」

 と、レベッカ。


「え、そうなの? あんまり自分の身体見ないようにしてたから、全然分からなかった……」

「フローラ様は、なぜなくなったと思いますか?」

 と、ばあや。


「うーん……なぜ、なのでしょう?」

「ご自身の傷のあったところ、覚えておいでですか?」

「うん、確かこの辺りに大きな切り傷が……」

 私はそう言って太ももの辺りを擦ってみると、あることに気付く。


「あれ、オスカー様の魔力を感じるような気がする……」

 あちこちの傷のあった箇所にも触れてみると、確かにオスカー様の魔力を感じた。


「オスカー様は、黒魔法の使い手です。ですが、フローラ様のため、苦手な白魔法を毎晩あなた様にかけ続けていたのですよ。あなた様が自分の傷痕を見て、ショックを受けないように……」


「オスカー様があの傷痕を……!? では、見られて……」

「あなた様がそう思われないように、黙っていたのでしょうね。ですが、その魔力の痕から、オスカー様の愛情を感じるとは思いませんか?」


「うん……感じます。一生懸命に、治そうとして下さったのですね……」


 私は嬉しくなると、いつもよりも早く朝食の場へと向かった。


⸺⸺


 朝食を食べ始めたばかりのオスカー様と対面する。


「オスカー様、見てください。ここ、です」

 私は胸元のキスマークをオスカー様へと見せる。

 すると、オスカー様は顔を真っ赤にしてすごい勢いで咳き込み始めた。


「オスカー様!? だ、大丈夫ですか!?」

「……そこなら隠れると思ったんだが」

 彼はそう言って慌てて水を飲む。


「これって、オスカー様が付けてくださったキスマーク、なんですよね?」

 私がそう尋ねると、側に立っていた料理長のジョージ様も顔を赤くして急に咳き込み始めた。


「そうだ……。そう面と向かって聞かれると、顔から火が出るほど恥ずかしいな……。ジョージにも知られてしまったし……」

「知られたら、ダメなのですか?」


「いや、ダメではないが……そうだな、付けたのは俺だ。言い訳はよそう。その様子を見るに嫌では、ないようだな……」

「はい、オスカー様の愛が伝わってきます! でも、薄くなってきてしまったので、またつけて下さい!」


「い、今か!? また、夜、付けてやる。今は、勘弁してくれないか……。恥ずかしくて死んでしまいそうだ……」

「ここで夜付けると宣言されている時点で、同じような気もしますが……」

 ジョージ様はそう言って堪えるように笑っている。


「う、煩いぞジョージ。フローラ、いいから今は飯を食え」

「はい、ジョージ様、いただきますね!」

「はい、フローラ様。今日もあなた様のためにこのジョージ全身全霊でお作り致しました!」

「まぁ、それは楽しみです!」


 いつものように美味しい朝食をいただく。でも今日は、久々にオスカー様も一緒だし、私の左手には可愛い指輪がキラリと光り、いつもよりも美味しく感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る