第17話 お忙しいオスカー様

 お忙しいオスカー様は、また更にお忙しくなってしまった。

 今までは朝食と夕方オスカー様がお戻りになった時と、夕食の時に顔を合わせられていたのに。

 最近は朝食の時間には既にお屋敷を出られていて、お戻りになるのも私の就寝後であり、全く会えなくなってしまった。


 ばあや曰くお屋敷には戻られてるとのことなんだけど、私は……贅沢にも会いたいと思ってしまった。

 そんな私の唯一の心の支えは、いつも髪につけているお花の髪飾りだ。

 オスカー様に会えなくなってから、寝室まで持ち込んで、枕元に置いて寝ている。


 私があまりにもオスカー様に会いたいせいか、髪飾りから微かにしていたオスカー様の魔力が日に日に増しているような気がした。

 今では髪に付けているだけで、オスカー様の魔力が感じられる。いつもオスカー様が隣に居てくれているような気がして、幸せだ。


 私は、気付けばオスカー様のことが大好きになっていた。

 ばあやはオスカー様がご両親に放ったらかされて育ったため、愛というものに疎いと言っていた。


 でも、私は確かにオスカー様からの愛を感じる。

 愛されることなどとうに諦めていた私に愛を教えてくれたのは、オスカー様だった。

 このお屋敷に来てから、愛されること、それから愛することの素晴らしさを知った。


 オスカー様は確かに冷酷公爵様との異名がある。でもそれは、帝国のために戦場で非情になっているからであって、お屋敷にいるオスカー様は、いつも優しい表情を私に向けてくれる。


「オスカー様、どうか無事にお戻りになられますように……」

 夜、就寝前にバルコニーでオスカー様への祈りを捧げると、髪飾りを持って寝室へと向かった。


「オスカー様……」

 いつものように枕元に髪飾りを置いて、髪飾りに触れながら眠ろうとする。

 いつものように夢と現実の狭間を行き来し、寝入ろうとした瞬間だった。


「フローラ……」

 遠くの方でオスカー様の声が聞こえたような気がしてゆっくりと目を開けると、私の手が髪飾りごとオスカー様の手に握られていた。


「オスカー……様?」

「ただいま、フローラ。せっかく俺が毎晩魔力を送り込んでいるのに、お前までそんなに魔力を送り込んでしまっては、髪飾りが持たないぞ」

 薄暗い中で、オスカー様がそう言って微笑んでいるのが分かった。


「オスカー様!? ど、どうしてここに?」

 私は驚いて布団を捲り上げ、身体を起こす。

「どうしてと言われても……俺の寝室でもあるからな……寝るためだ、と答えればいいか?」


「あれ、オスカー様、別のお部屋で寝られているのでは……」

「そうか、お前はそう思っていたんだな。まぁ……なんだか照れくさくて、わざとお前が寝入ってから入っていた俺が悪いな。寂しい思いをさせたか?」


「……オスカー様……」

 自然と涙がこぼれ落ちた。寂しくてポカンと空いていた胸が一気にいっぱいになって、涙となって溢れ出る。


 そして私は、オスカー様に強く抱きしめられた。


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