第3話 シュナイダー公爵様のお屋敷

「エリーゼ様、ようこそお越しくださいました!」

「わぁ……」


 広いロビーでたくさんの使用人さんたちが花道を作ってくれていた。

 その華やかなお出迎えは私の思っていたものとは全然違って、呆然とその場に立ち尽くしてしまっていた。


「エリーゼ様、どうぞこちらへ」

 先頭の使用人さんにそう言われ、はっと我に返る。

「あっ、す、すみません……」


 きゅっと肩を縮こませて、ペコペコしながらその花道を進む。

 そして花道の最後に待っていたメイドさんに、2階の個室へと案内された。


「こちらがエリーゼ様のお部屋になります」

「はい……あれ?」

 私は一体どんな拷問器具が置いてあるのだろう、そう思いながら恐る恐る足を踏み入れる。

 すると、そこはとても綺麗に装飾された、広いお姫様のお部屋だった。


「エリーゼ様、いかがなさいましたか?」

「あの……拷問はこちらではされないのですか?」

「ごっ、拷問!?」

 メイドさんは目をパチクリとさせている。

「あれ……私、拷問されるのでは……?」

「そ、そんなこと致しませんよ! そんなことお聞きになっていたのですか?」

「はい……」


 私がうなずくと、メイドさんはその場にサッと土下座をした。

「こちらの手違いで誤った情報をお伝えしてしまい、大変申し訳ございませんでした!」


「い、いえ、違うんです……! あなた方のせいでは……。どうかお顔を上げてください。私、拷問されるのではないのですね……良かった……」

 気付けばポロポロと大粒の涙が溢れていた。あれ、おかしいな。ここ10年以上涙なんて出ていなかったのに。


「エリーゼ様……!」

 メイドさんは慌ててハンカチを持って来てくれて、そっと拭いてくれた。

「すみません……」

「いえ、とんでもございません……! あっ、すみません、こちらの頬、お怪我をされているのですか? 痛くなかったですか?」


「自分の涙が少ししみますが、お優しく拭いて下さったので、もう大丈夫です。ありがとうございます」

「いえ……あの、回復薬をお持ちしますので、こちらで少々お待ちいただいても宜しいでしょうか」

「そんな、わざわざすみません……」

「いえ、それでは行って参ります」


 メイドさんは慌てて部屋から出ていった。そう言えばスープを顔にかけられたときの火傷、まだ治ってなかったな……。

 それにしても、拷問をされると思っていたのに一体どういうことなんだろう。

 エリーゼお姉様に成りすましているから、もしかしたら私フローラとは対応が違うのだろうか。


 そんなことを考えていると、10分ほどでノックもなしに扉がバンッと開く。

「え、あ、あなた様は……!」

「お前は……やはりフローラか」

 扉の前に立っていたのは、アーレンス城が制圧されたあの日、バルコニーまで来てくださった黒髪の男性だった。

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