第30話 罠

 今日もレベッカとルスティの町に来ていた。

 町の人と挨拶を交わしながら、食べ歩きをしたりお買い物をしたり。


 お母様とお姉様がお屋敷に押しかけて来たあの恐怖も、オスカー様の励ましもあって今はすっかり忘れてしまっていた。


⸺⸺


 午後4時を回って、そろそろオスカー様の帰宅を迎える準備をするため帰ろうかという時。

 レベッカが町の人に呼び止められて、私は一人で辺りをぶらぶらしていた。

 最近はこの時間になるとお屋敷にお土産を持って帰ってほしいと呼び止めてくれる町の人も多く、レベッカが対応している間よくこうして一人でブラブラするようになった。


 すると、今日は大きなピンクの帽子を被った女性が私に話しかけてきた。

「もし、そこのお方、少し宜しいですか」

 とてもしゃがれた声だけど、喉の調子でも悪いのだろうか。

「はい、どうなさいましたか?」


「ちょっと困ったことになってしまって、良ければこちらへ来て手伝っていただけませんか」

 困ったこと? 何だろう。でも、この町で困っている人を放ってはおけない。

「はい、私で良ければ、お手伝い致します」


「あぁ、ありがとうございます。では、こちらへ」

「はい」


 その方についていき、町の外れの方まで歩いてきた。

 こんなに遠くに来てしまって、レベッカが心配してしまう。

 とにかくお手伝いを早く済ませて彼女のところに戻らなくては。


 目の前には古い小屋の様な建物。窓はなくて、倉庫か何かだろうか。

 その女性は入り口の錠を外すと中に入るように促してくる。

 中は埃っぽくて古い農業用の道具などが閉まってあった。この道具をどうにかしたいのだろうか。


 そんなことを考えていると、入り口がゆっくりと閉じられていき、辺りが真っ暗になる。

「あの、ちょっと……!」

 呼びかける私の声も虚しく、非情にも外から錠をかける音がガチャンと聞こえてきた。


「あんたはここで誰にも気付かれずに干からびていきなさい!」

「その声は……エリーゼお姉様……」

 さっきまでのしゃがれた話し方は、エリーゼお姉様が正体をバレないように話し方を変えていたんだ。


 そんな事全く頭になかったから、話しかけられた時には魔力を探ろうとすらしなかったけど、そう思えばお姉様っぽい魔力が感じられる。


「あはははは……はははは!」

 お姉様は狂ったように高笑いをして、この小屋から離れていってしまった。


「どうしよう……」

 閉じ込められてしまった。私、お姉様の言う通りに誰でも気付かれずにこのまま干からびていくのかしら。


 ううん、そんなことない。


 今の私には、レベッカもオスカー様も、ばあやも町の人もみーんないる。

 もうあの頃のどこにも居場所のなかった独りぼっちの私ではないんだ。

 大丈夫、大丈夫よフローラ。きっとすぐに助けが来てくれる。


 そうだ、祈りを捧げれば……!

 私は手を合わせていつものように祈り始めた。


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