第7話 見えない表情

「オスカー様、お待たせ致しました」

「すみません、遅くなりました……!」

 ロビーで待っていたオスカー様のもとへと駆け寄り、ばあや様とレベッカ様と一緒に深く頭を下げる。


「……行くぞ」

 オスカー様は無表情でそれだけ言うと、スタスタとお屋敷の外へと出ていってしまった。

「さぁ、フローラ様、参りましょう」

「はい」

 レベッカ様に付き添われ、私もお屋敷の外へと出る。


「オスカー様、フローラ様、行ってらっしゃいませ!」

 私がお屋敷を出る間際、たくさんの使用人さんがお見送りをしてくれた。

 アーレンス城を出るときは、誰も見送ってくれなかったのに。


 レベッカ様に手伝ってもらって、既にオスカー様が乗られている馬車へと乗り込む。

 すると、レベッカ様もばあや様も馬車には乗らず「行ってらっしゃいませ」と頭を下げた。


 うそ、もしかして、オスカー様と2人きり!?

 私がパニックに陥っていると、馬車の戸が閉められゆっくりと動き出した。


⸺⸺


 もう30分は走ったであろうか。大きな町の風景からのどかな大平原の風景へと変わり、外を見ているだけでも楽しかった。


 隣に座っているオスカー様は、私とは反対の窓の外を見ており、表情が伺えない。

 一体どんな表情で、一体どんなお気持ちで、この馬車に乗られているんだろうか。


 ずっとオスカー様の耳元辺りを見つめていると、彼は窓の外を眺めたまま口を開いた。

「俺に何かついているか」

「えっ!? オスカー様はお耳にも目がついていらっしゃるのですか!?」

 私が驚いてそう尋ねると、オスカー様は静かにふっと吹き出した。


「……ついている訳がないだろう」

「あの、そうですよね……すみません……」

「退屈か? あと15分程で着く。もうしばらく我慢しろ」

「あ、いえ……風景を見るの、とても楽しいです」

「風景は、見ていないようだが」

 オスカー様は窓の外を眺めたままそう言う。やっぱりお耳にも目がついているのでは……。


「あの、オスカー様」

「なんだ」

「嘘をついてしまい、申し訳ありませんでした」

「嘘?」

「エリーゼお姉様だと偽って、オスカー様のもとへ参ってしまいました……」

「それは、お前の意思で偽って俺の屋敷に来ようとしたのか?」

「いえ、そうではありませんが……」


「ならば、お前が謝る必要はない」

「はい……すみません」

「俺は、謝る必要はないと言った」

「あっ、ごめんなさ……あっ、えっと……はい」


「それに、あのエリーゼとかいう傲慢ごうまん女が来るより余程良い。……来てくれて、感謝している」

「っ! 勿体なき、お言葉です……」


 私という存在が来たことを感謝してくれたことに嬉しすぎて泣きそうになってしまったが、お化粧が崩れてしまうといけないので、必死に涙を堪えた。

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