第1話⑯

ママ・ベリンダは声と同様、縦にも横にも大きい女の人だった。黒いセーターを肘の上まで袖まくりして、首から鎖がついた眼鏡が光っている。浅黒い肌とハッキリした顔立ちでぬうっと3人を覗き込んでくる姿は、かなり迫力があった。

「管理なんて必要ありやしないさ。「眠る都」はこちらから手を出さなければ噛み付きやしないからね。あたしは考え無しに入ろうとする小僧っ子のお目付け役さね」

特に、と言ってリナリィに指を指し返す。

「お前みたいな跳ねっ返りのな!」

「んだと!やんのかお前受けて立つぞ!!」

「ママと呼びな!このハナタレが」

「んだらァ!しゃらくせえ!」

リナリィは机越しに、ママ・ベリンダに飛びかかろうと腕を伸ばす。

「もう!なんでも噛みつくのはおやめなさい。」

すかさずナタリアが尻尾を伸ばして、リナリィの胴体に巻きつけると、軽々とママ・ベリンダの机から引きはがした。

「止めるなドラゴミロフ!このやろう、ギタギタにしてやる」

「馬鹿なことを言ってないで、さっさと入りますよ。もう……ママ、お願いいたします」

そう言って、ナタリアは首に下げたペンダントを見せた。六本脚の竜を模した銀細工が巻き付く空色の石を見ると、ママ・ベリンダはうなずいた。

「ふん、ドラゴミロフに礼を言うんだな」

そう言って指を鳴らすと、鉄格子の扉がガチャン!と大きな音を立て、ゆっくりと階段へと繋がる道を開けた。

「中で死ぬんじゃないよ!あたしの仕事が増えるからね」

「うるせぇ!!お前こそ、私が出てきたら覚悟しておくんだな!」

鉄格子の扉をくぐると、カビっぽい空気の満ちる階段につながっていた。エルムリッジ城と同じ石造りでできた階段は、数段ごとに松明が炊かれているおかげで、「眠る都」の入り口が小さく見えた。

階段を下る最中も、リナリィは姿が見えなくなるまでママ・ベリンダをにらみ付けていた。リナリィの前に立って階段を降りていたナタリアは、横を歩くクロエに声をかけた。

「あの、エンデはああいうこと多いんですか?」

「ああいう、とは?」

クロエは聞き返した。

「さっきの、ママ・ベリンダとのようなことです」

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