第1話㉚

「――!――――!」

空中に投げ出されたクロエの口が何かを叫んでいるように見えたが、一瞬で枝が折れるバキバキという音にかき消されていった。

「悪いな、クロ。私だけの方が速い。それに、ナタもあのデカブツも、狙ってるのは絶対私とこの本だ」

果たしてリナリィの見込んだとおりだった。竜の姿で視界に入るものを手当たり次第に攻撃するナタリアも、闊歩する岩山のような巨像も、クロエが降りた(正確には振り落とされた)ことに気が付いた様子はまるでない。

リナリィは二対の凶暴な視線を受け止めて、不敵な笑みを浮かべた。

「来いよ。私はこの国一番の箒乗りライダーになる魔法使いだぜ」

重い荷物・・・・を捨てたリナリィの動きは、若い燕のようだった。空を切り裂くように飛んだかと思えば、急上昇してわざと竜の鼻先をすり抜けていく。一気に高度を上げると、一転して錐揉きりもみしながら空を駆け下り、地面へ激突する寸前に軌道を変えて巨像の股下をくぐり抜ける。

巨像が振り返ろうと上半身をひねったところに、小さな逃亡者を追いかけていた黒灰石の竜が激突した。

それまで小揺るぎもしなかった巨像が揺れる。

不安定な姿勢で竜のタックルをまともに受けてしまった巨像は、わずかな抵抗も空しく、「眠る都」の大地に倒れ伏した。

「ヘイヘイヘイ!デカい図体して箒乗りライダー一人止められねえのかよ」

再び高度を上げたリナリィの眼下で、土煙が噴き上がった。土褐色が広がる大地に向かって、リナリィは人差し指を突き出した。

その指先を、空へと駆け上った炎がかすめた。

「あっちぃな!くそ、今度はお前だ、ナタ!!」

「眠る都」の空を貫いて、青色の火柱がもうもうと上がる土煙を切り裂いた。砂塵の向こうから現れたのは、横たわる巨像の背中に四肢を食い込ませ、天へおとがいを突き出す竜だった。

意図せぬ体当たりで巨像を押し倒すことに成功した竜は、その背中を一気に駆け上がり、保存文書庫だった建物の上に陣取った。

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