第1話㉒

リナリィはナタリアの肩をぐいとつかんだ。

「頼む、ドラゴミロフ。ランプライト先生がくれたチャンスを、取り上げないで」

ナタリアは、しばらくリナリィの眼差しを見つめ返していた。やがて、ふっと顔が崩れて苦笑いの表情になった。

「立ち話をしすぎました、参りましょう。……保存文書庫までもう少しありますから」

そう言って、二人の前を歩き出す。リナリィが小走りで後を追い、クロエがのっそりとそれに続く。

「あなた、ただ箒バカというわけではなかったのですね」

「いや、こいつは箒バカですよ。今はそれしかできないからですが、一ツ星を取ったら、更に手に負えなくなるでしょうな」

「なんだよ!馬鹿にしやがって」

三人は石畳が剥がれ、土が露わになった道を行く。歩幅の違う三種類の足跡が並んだ。

「この課題が終わったら、私も調べるのを手伝いましょう。あなたが“星の海”を飛ぶとき、一緒に飛んでみたいものです」

「いや、飛ぶのは私一人でいい」

リナリィが呟いた。

「もう!なんなんですの!」

ナタリアが振り返るより早く、リナリィは箒に飛び乗るとぐんぐんと高く飛んでいく。

「うるせえ、ナタ!ちょっと、周りに魔獣がいないか見てくる!」

「照れ隠しですな」

バッグから出した堅パンをバリバリと噛み砕きながら、クロエはぼそりと言った。

「今、私のことナタって言いました?」

「懐かれたんですよ。あれと付き合うと苦労しますよ」

リナリィは箱庭のように小さくなった(と言っても、どこまでも広がっている)「眠る都」を見下ろして、ぶつぶつ言った。

「なんなんだよ、ナタ。急に分かりの良いこと言いやがって」

ナタリアの呼び方が変わっていることに、リナリィ自身は気が付いていなかった。

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