第1話㉓
リナリィは箒の先端を地面に向けて、ぐるりと周囲を見渡したが、クロエとナタリアの他に動いているものはなかった。リナリィは空中に大きな輪を描き、急降下や上昇したり、ときどき止まったりして、建物の影や地面に空いた穴の中に魔獣が隠れていないか目を光らせたが、「眠る都」は入ってきたときの時が止まったような静けさに包まれていた。
二人のところに戻ろうとしたとき、リナリィは地面で何かがキラリと光るのに気が付いた。
「ん?」
リナリィは地面に降りて、目を凝らしてみる。空中で見つけたものは、石畳のすき間に挟まっていた。近くに落ちていた枝をすき間に突っ込んで、掘り出した物をしげしげと眺める。
「指輪?」
石も飾りも付いてない、金色のつるんとした指輪だった。石に挟まれていたのに、その表面には傷一つ付いていない。おそるおそる中指を入れてみると、まるでリナリィのために作られたかのようにピッタリと収まった。
「へへ……」
そのとき、遠くからクロエがおうい、と呼ぶ声がした。
「そろそろ文書庫に着きますから、戻ってきてください」
「はいよ!」
リナリィは箒にまたがって、二人のそばまで飛んでいった。
「何してたんです」
「クロ、これ拾った」
リナリィは指輪を嵌めた右手を掲げた。クロエは分厚い眼鏡を持ち上げると、眉間にシワを寄せて指輪を見る。
「もうけたじゃないですか。「眠る都」内で見つけたものは、先生に報告すれば個人所有にしていいはずですよ」
やがて、三人の前に巨大な建造物が現れた。継ぎ目が少しもない円形の台座の上に、太い石柱が何本もそびえ立ち、ずっと上の方にある天井を支える。石柱で支えられた建屋の中に入ると、円弧の形を描いた本棚が幾重にも置かれ、どの棚にも本がびっしりと納められていた。
「これが文書庫……何探すんだっけ?」
「あなたの持っている課題に書いてありますよ。それ、そこ……違います。そう、アレイスター写本の6巻ですね」
「何それ……知らないんだけど」
二人がやいやい言っている間、ナタリアは本棚に刻まれた文字を追い、一つの棚の前で止まった。
「エンデ。この列の、一番上の本棚を調べてくださいますか」
リナリィは箒で数メートルを飛び上がり、本棚の中から一冊の魔本を抜き取った。リナリィが片手で持てるくらいの写本には、仰々しいくらいの装飾と錠前が付いていた。
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