第1話⑤

わずかに前に出たリナリィの背中に、上から降りてきたグランディールが突っ込む。ぶつかられたリナリィは、猛スピードを出したまま城壁へと突進し、狭い入口から、城壁の中に作られた回廊へ飛び込んでいった。

「エンデ!」

グランディールはリナリィの後を追って回廊に飛んでいくと、入口から中へとさけんだ。

「おい、死んでないだろうな!大丈夫か!」

エルムリッジ城の城壁には、壁の上と壁の中、二つの回廊があった。

かつて何千人もの騎士たちが走ったり、時には戦場になったりしていた上の回廊と比べて、壁の中に作られた回廊は薄暗くて狭いし、おまけに上の回廊へつながるハシゴやら、昔使われていた古い武器やらがそこら中に置かれていて、とてもまともに飛べるような場所ではなかった。

「返事しろよ!どこにいる!?」

グランディールの声が狭い回廊に響いたとき、城壁の横の狭間窓(城壁から外に向かって魔法を撃つために使う、小さな窓)から炎が吹き出した。

次々と狭間窓から出る炎で、回廊の中を猛スピードで進む者がいるのがひと目で分かった。そして、その炎は真っ赤な色をしていた。

グランディールはスピードを上げ、ゴールに向かって箒を飛ばしたが、すでに遅かった。

回廊から飛び出したリナリィが真っ先にゴールを駆け抜け、湧き上がる観客を前に、拳を突き上げていた。


 ◯


「ちょっと、いつまでそうしてるんですか」

レースが終わって観客が散り散りになった後、クロエはリナリィと一緒に城へと帰るところだった。リナリィはクロエの頭上で、箒に乗ったまま、しかめっ面をしていた。

「レースで勝ちましたし、見てる人間は盛り上がっていましたし、何が不満なんです」

「満足なもんか!」

リナリィは箒の上で頭をばりばりと掻いた。

「グランディールの野郎!最後、飛ぶの止めてただろ」

始まった、とクロエは小さく言った。

「まあ、自分がぶつかった相手が死んだかも、と思ったら普通止まりませんかね」

リナリィはクロエと同じ目の高さになるまで降りてきて、その顔を覗き込んだ。

「レース中にケガした選手が真っ先にゴールしたら、一着は無効だと思う?」

「私が知りませんよ」

クロエはうっとうしそうにリナリィを向こうへ押しやる。

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