第1話⑧

大声で呼び止められて、リナリィとクロエは思わず動きを止めた。

城から出てきた女の子が二人目がけて、肩を怒らせながら大股で近寄ってくる。はっきりと言えば美人の部類に入るであろう顔立ちだが、今はきりきりと吊り上がった眉毛のせいでかなり迫力があった。

「げっ、ドラゴミロフ」

リナリィは思わず後ずさる。

「あなた達のやっていたことは、まるっと見ていましたよ!」

ナタリア・ドラゴミロフはリナリィとクロエの同級生で、リナリィがマギ専の中で苦手としている人物の一人だった。

嫌いかと聞かれたら、リナリィははっきり違うと言っただろう。

ナタリアは頭もいいし、性格もまじめで礼儀正しい。ドラゴミロフ家といえばリナリィでも知っているほど格の高い家だが、人によって態度を変えるようなこともしない。まことに尊敬すべき級友なのだが、

「まじめすぎんだよなぁ……」

王立魔法技術養成専門学校ここは名前こそ“専門学校”を名乗っているが、課題と必修の授業さえクリアすれば自分で学びたいことを自由に選ぶことができる。そのせいで、生徒たちも校風に合わせて自由、悪くいえばルーズなところがあるのだ。

だが、目の前にいるナタリアにはそのルーズさが一切通じない。どれだけリナリィが面白いと思ったこと(たとえば、)もしマギ専に、「校則丸暗記選手権」があれば、ダントツで優勝するのは彼女にまちがいないだろう。

「学校が認可していない危険な草レース、そして学生間の校内賭博!どちらも校則違反もいいとこです!」

「あんなんじゃ危険のうちにも入らんて……」

リナリィはドラゴミロフに聞こえないように言った。

「この箒バカの言うとおりです。バカは分かるまで飛ばしておけばいいんです。それにですね、ドラゴミロフ女史。私は魔道具の試験をしただけで、賭博うんぬんは魔道具の機能ですよ」

クロエも丸眼鏡の鼻当てを押し上げながら言い返した。

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