第1話㉝

「何がなんだか、ぜんぜん分かんねえけど」

リナリィは確かめるように、箒を両手で握り込んだ。

脇を締めて脚で体を固定し、顎が付きそうになるほど柄にしがみつく。それは、リナリィがノッている・・・・・ときのスタイルだった。

「お前、まだ飛べるんだな?」

返事の代わりに、箒は一瞬で「眠る都」の空を駆け上がった。それも、さっきまでとは比べ物にならないくらいの速さだった。

「はやー!!」

リナリィは絶叫した。少しでも体を起こせば吹っ飛んでしまいそうな風の中でも、彼女の心は恐怖ではなく好奇心で満ちていた。

「知らなかった!知らなかった、こんなスピード出せたのかよ私!」

リナリィのはるか下でナタリアが飛翔し、速度を上げて上昇する。しかし、もはや竜なんてどうでもいい、と言わんばかりにリナリィは空を踊った。

「いける!これならどんな空へだって翔んでいける……!」

リナリィは夢中で箒を動かした。

空中に赤い閃光が現れた。写本と箒から放たれる、赤く輝く魔法の火が「眠る都」の薄暗い空に飛行の軌跡が残像のように残る。

リナリィの飛んだコースが、遮るもののない空間に刻みつけるように描画された。

飛行の轍はやがて空中に大小の図形を生み出した。それらは次第に折り重なって巨大な一つの集合へと変貌する。

やがて、三重の円と複数の三角形が組み合わされた図形ができあがった。

「この空は私のものだ!!」

その中心を、緋色の矢と化したリナリィが上から貫いた。

彼女がそう言い放ったのと、上空の図形が辺りを赤く染め上げるほど強い光を放ったのは、ほぼ同時だった。

「えっ、なに!?」

そこで初めて、リナリィは自分で描いた軌跡に気が付いた。

「なんだあれ!魔法円……!?」

リナリィの頭上に鎮座していた魔法円はどんどん輝きを増した。やがて、数百枚のガラス板を砕くような音と共に無数の赤く輝く小片へと変わり、大地へ向かって降り注いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る