第1話㉜
「くそ、こうなったら……!」
リナリィは箒を脚で挟んで、両手を手放した。空いた右腕で杖を抜き取ると、その先端を巨像の無機質な顔に向けた。
「こんな辛気臭いところで終わってたまるか!私は“星の海”を飛ぶんだよ!」
そう叫んで杖を振り上げた途端、リナリィの視界が白色に支配された。
あまりの眩しさに、リナリィは振り上げた腕で顔をかばった。弾みで杖が手からこぼれて、「眠る都」の灰色の大地へと落ちていった。
目をつむり手で目元を覆っても、直接頭の中に刺さるような光は、数秒の間をおいて弱まった。
リナリィはおそるおそる目を開けた。
飛んでいる最中、しかも暴れる怪物二体と対峙しているときに目をつむるなんて、それが死因になってもおかしくなかった。だが、巨像も竜も、光が現れる前と変わらない様子でリナリィを見上げていた。それどころか、ゆるやかに落ち続けていたリナリィの箒も、力を取り戻したように空中で静止していた。
リナリィは光の根源を探して左右を見やると、自分が抱えていた本がかすかに光を帯びていることに気が付いた。
「なんだよ……」
今は巨像の背中に屹立し、竜が陣取っている保存文書庫から取り出した写本は、リナリィの手を離れて浮かび上がる。触れられてもいないのに真ん中辺りのページを広げると、リナリィの前で停止した。
リナリィはページを見て目を丸くした。そこには先ほどと同じ、文字ともつかぬ記述がびっちりと刻まれていた。
唯一違うのは、
「いや、変だろ。意味が分からねえ、文字なのかも見当がつかねえ。なのに、これは
リナリィがそこに書かれている“何か”を読み上げたことだった。
「“メア・グラン・ヴァンダーレ・アストロン・ヴァルクンスス”……」
それは、口にしたリナリィ自身も聞いたことがない言葉だった。だが、変化は唐突に、顕著に現れた。
写本を覆っていた光が赤みを帯びた。それは、リナリィの箒に吊り下がるランタンの中で燃える火と同じ色だった。
リナリィは背中を炙り続けていた熱が急速に下がっていくのに気付いた。すわ、箒が燃え尽きてしまったのではと振り返ると、相変わらず穂は炎に包まれていた。
ただ、その炎は、
「魔法の火になってる……」
熱の代わりに魔力を放つ、魔法使い達が魔法に用いる火へと姿を変えていた。
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