第1話⑱
どんよりとした雲がかかっていても、リナリィには一向に気にしないらしい。持ってきた箒にそそくさとまたがると、
「よっしゃ、飛べ!」
意気揚々と雲と霧が渦巻く中へ飛び込んでしまった。
「ちょっと、降りてきてやるべきことを確認なさい!あなたの課題でしょう!」
はしゃいで空を飛び続けるリナリィが少し落ち着いて地面に降りるのに、ナタリアは杖の先から火花をバンバンと打ち鳴らさなければならなかった。
「こんなに広いんじゃ、マギ専の下どころか、エルムブルクの下までいってるんじゃない?」
リナリィはやっと二人の隣まで降りてきたが、箒に乗ったままふわふわと浮かんでいた。
「どうでしょうか。ここは普通の地下室とはまるで違いますから。上と同じように、広さも魔法で広げられているのかもしれません」
どんよりとした空を目を細めて見上げながら、ナタリアが言った。
「さっさといきましょう。保存文書庫まで大した距離はありませんが、エンデ女史が騒いだせいで魔獣が集まってきたら面倒です」
クロエが前を歩き出し、ナタリアが続く。リナリィは二人の周りをゆっくりと飛び回った。辺りはしんと静まり返っていて、石畳の大通りの上を歩く二人分のコッコッという足音が、大きく聞こえた。
石畳が続くまましばらく歩いたところで、ナタリアが小走りで建物の影に隠れた。手の動きで「来なさい」とクロエとリナリィを呼び寄せる。
「どうしたんだよ」
箒から降りないまま、ヒビの入った壁にもたれかかってリナリィが聞いた。
「シッ」ナタリアは鋭く言って、壁の裏側を指差す。クロエとリナリィが覗き込んだ先に、毛むくじゃらの生き物の集団がたむろしていた。子どもくらいの大きさのが五匹、大人の背丈より大きいのが一匹。どちらも二本足で歩き回り、骨で作ったような棍棒を手に、毛に埋もれそうな小さな角と、犬に似ているがどことなく愛嬌を感じる顔をしていた。
「あれ、なに?」リナリィがナタリアとクロエに聞いた。
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