第1話㉟
リナリィの頭の中に、いつかの記憶がありありと浮かび上がり、目の前の光景と重なった。リナリィは目を剥いた。
「これが“星の海”なのか……?」
そう呟くリナリィ眼下で繰り広げられる、戦闘と呼ぶのもはばかられる一方的な蹂躙は終幕を迎えていた。
巨像はもはや穴だらけの岩山のような有り様だった。背中に背負っていた保存文書庫は瓦礫の集合体となって、収蔵されていた本もあちこちに散乱している。かろうじて形が残る顔からは、やはり感情らしいものを伺うことはできず、ただリナリィを見上げていた。
無数かと思われた光の欠片も、空中に二つ三つばかり残っているだけだった。
一方、リナリィにも等しく限界が訪れた。
魔法の火を宿していた穂がついに燃え尽きて、箒が力を失った。リナリィがどうこうするまでもなく、ずるずると下降していき、ついに主を放り出した。地面に落ちた拍子に、箒と一緒に写本が転がり落ちた。リナリィが手を伸ばしたが、箒から火が燃え移り、あれよあれよと真っ黒に変わってしまった。
「あぁ!……くそ!」
リナリィは地面を殴り付けると、ごろりと「眠る都」の大地へ倒れた。
「最悪だ……」
「やりやがりましたな、エンデ女史」
そう言いながら、クロエが近付いてきた。腰まである真っ直ぐな髪のあちこちに枝やら葉やらが付いてるのを、うっとうしげに払う。
「クロ。なんなんだよ、ここ」
さて、とクロエは答えた。
「私に聞かんでくださいよ。あんたがやったことですぜ」
「箒も写本も燃えちゃったし、わけ分かんねぇデカブツは出てくるし、保存文書庫ブッ壊したし……退校処分とかなんないよね、私」
リナリィは力なく天を仰いだ。「眠る都」の空は来たときと同じく雲と霧でひしめいていて、リナリィの心を写したようだった。
無星のエンデは止まらない! 擬雨傘 @unam93
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