第1話②

後続を大きく離す先頭の箒乗りライダーが、側防塔に集まる男女の頭上を駆け抜けた。箒の先端に取り付けられたランタンに灯る青い炎が、空中に長い尾を描いていく。

青い光を従えて飛び去った箒から数秒遅れて、箒乗りが六人、次々と飛んでいく。それぞれ箒に付けたランタンに光を宿して、空にカラフルな軌跡を描いた。

先頭が最後の一周に入るやいなや、見物客は手に手に杖だの、本だの、カードだのを持つと、好き勝手に火花を打ち上げた。あちこちで派手な破裂音とともに色とりどりの炎がぱちぱちと弾けたり空中を踊り回ったりし始める。

女の子はにわかに盛り上がる周囲を無視して、大量の紙切れが挟まれた本を閉じた。スカートのポケットから短い杖を取り出すと、杖の先を表紙に向け、

さいまわせ、“無慈悲な胴元ブックメーカー”」

そう言うやいなや、真鍮しんちゅう製の細工があつらえられた、けばけばしい赤色の革表紙がぶるりと震えて、金色の文字が浮かび上がる。

「“締め切り。確定までお待ちください”」

女の子は本を開こうとするが、本はまるで元から一枚の板でできていたかのように、びくともしなかった。

「“無慈悲な胴元”はちゃんと機能していますね。あとは結果を御覧ごろうじろ、ってやつですか」

「最後尾が来たぞ!」

誰かの叫ぶ声がして、女の子はようやく顔を上げる。

「かなり差が広がってるぞ。なあ、赤のランタン……8番は誰だ?」

「エンデだよ。リナリィ・エンデ」

「“無星のエンデ”がなんでケツを飛んでるんだ!?箒の調子でも悪いのか」

「これだけの差で、グランディールの大逃げに追いつけるの……?」

先行する七つの光を追いかけて、空中に赤い光の線を描く箒乗りライダーを見て、

「あいつ、遊んでやがるな。……まあ、私はこいつ・・・のテストができればなんでもよいのですが」

女の子は舌打ちを鳴らした。

「手抜きでもして私の魔道具製作に悪影響を出したら、殺す」


 ◯


「とかなんとか言ってそうだな、クロエのやつ」

箒に抱きつくようにしていた体を少し起こして、リナリィ・エンデは城壁を見下ろした。友人で魔道具職人志望のクロエ・オーダンの鋭い視線が見える。

「そういえば……今日も自作した魔道具持って、スタート前から何かやってたな」

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