無星のエンデは止まらない!

擬雨傘

第1話 それならお前が取りに行け!

第1話①

エルムブルクの街には、古めかしい城が一つ立っていた。千年以上も昔に魔法使い達によって作られた城の名前は「エルムリッジ城」といい、北にある台地からエルムブルクを見下ろしている。

魔法をかけられた石たちが自分で整列して出来上がった・・・・・・・・・・・・・と言われている城壁は、エルムリッジ城をぐるりと囲んでいる。壁は百歩ほど歩くと筒型の側壁塔につながっていて、塔はまた別の壁へとつながっている。

エルムリッジ城の西にある側壁塔の屋上に、数十人の男女が集まっていた。皆、日が沈みかけて薄暗くなっていく空を見上げて、何かを探すように視線を動かしている。

「だれか、明かりを貸してくれませんかね。台帳ブックが見づらい」

女の子の声がそう言うと、しばらくして一人が杖の先に灯した光を差し出した。握りこぶしくらいの光の球が周囲を明るくすると、どっかりとあぐらをかいた姿が浮かび上がる。

「どうも」

女の子は丸い眼鏡の向こうで、細い目を更に細くしながら礼を言った。座っていても分かるくらい背が高くて、長い手足を折り曲げるように座っている。細い背中から地面まで届きそうなくらいの、つやつやした黒髪を揺らした女の子は、持っていた大きな本を床に置く。本の真ん中辺りを開くと、ページにデカデカと「第13回マギ専周回草レース」と書かれていた。

「もう賭けるやつはいませんか!ラスト一周に入ったら締め切りますよ」

女の子が大きな声で言うと、周りにいた何人かが近寄ってきて、紙切れを渡した。

紙切れにはそれぞれ、

「4番、10ルム」だとか、

「5-1-2,4,7三連単、各2ルム3レメント」だとか、

「8番、宿題一週間分!」

といった具合で、「何番に」「何を賭けるか」が書かれている。

背の高い女の子は受け取った紙を番号別に手早く分けると、本のページをめくりながら、次々と挟み込んでいく。

すべての紙切れがいずれかのページに収まったのとほぼ同時、

「来た!!先頭は4番!」

空を睨んでいた集団の中から誰かが叫び声を上げて、ワッと歓声が上がった。

「グランディールの大逃げだ!後続がまだ見えない!」

「あそこに見えた!ねえ、黄色って何番?」

「5番!ああ、次々来た!後ろはほぼ団子状態だ!」

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