第17話 違和感の廃墟
「なんだここは…」
どこか懐かしい昔の日本家屋の内装に俺は驚きを隠せずにいた。
少なくともこの世界にはこんな場所はないと俺は考えていたこともあるがこんな地下にこのような場所があるという事にも驚いていた。
どこかで見たことがあるようで見たことのない内装。下駄箱の古臭い感じや、奥へと続く廊下の古ぼけた木の床の感じ。
「なんだここ…」
俺の口から出た言葉は何ともチープでありきたりの言葉であった。というよりもこんな言葉しか出ないほど混乱している。
とてつもなく深い穴に落ち、壁一面の謎の壁画を見たかと思えば昔懐かしい日本家屋の登場だ。こういう反応にもなるち納得してもらいたい。
俺は「お邪魔します」と小さく呟いて玄関の戸をくぐった。特に不思議なことや家主の返答はなかったことに安心してそのまま土間で靴を脱ぎ家へと上がった。
スリッパもないため足の裏へと床のひんやりとした感触が伝わってくる。その感触にどこか懐かしさも感じながら奥の部屋へと歩みを進めた。
そしてキィという甲高い音と共にドアを開けるとそこにはテーブルと椅子だけがある部屋が広がっていた。
「キッチンか?」
なぜ疑問形なのかというとテーブルとイスはあるのに他のあるべきものがないからだ。何がないかというとコンロや冷蔵庫、食器棚、洗い場といったキッチンに必要なものがないからだ。
正確に言うならそういったものを置く場所は開いているのだがそこに存在していないといった感じだ。
昔探検した廃墟がこういった空間だったことを思い出す。有るべき物がそこに無いような違和感のある光景。
辺りを見渡し他の扉を探すと先ほど入った扉の左隣に両開きのガラス戸があるのがわかり扉を開く。
今度は広い座敷であり、恐らく八畳ほどの大きさだろう。奥には掛け軸をかけるような場所があるが、やはりそこには何もない。
部屋の奥にある押し入れにも何もなく、仕方なく入った場所の近くにあった別の引き戸を開けるとそこは先ほど歩いた廊下であり、無表情で佇んでいるスーがいた。
「うわぁぁぁぁああ!」
一瞬お化けが出たのではないかと驚き後ろへ倒れこんでしまいそうになったがスーが俺の腕を取り倒れるのを防いでくれた。
俺はスーへ「ありがとう」とお礼を言うとスーは胸に手を当てお辞儀を返した。
スーの脇を抜け玄関の近くにあった扉を開くとそこは書斎のようであり、床にはじゅうたんが張られ、大きな机と何も入っていない大きな本棚があっただけだった。
なんとも言えない違和感にだんだんと俺は不気味さを感じながら書斎入り口の近くにある階段に目をやった。
ただの木製の階段なのだが、暗い上にこの家の異常さからくる不気味さゆえに階段へと歩みを進めるのが躊躇われる。
だがそんなことを言って探索しないわけにもいかず、仕方なく一段目へと足をかけた。
ギィという木のきしむ音が暗闇へと鳴り響く。俺は生唾を飲むと階段を一段一段昇って行った。何段か上がったところでゴトッっという別の音が後ろからして振り向くとそこにはスーがこちらを見上げていた。
気を取り直して木の階段ををきしませながら一番上へとたどり着くと左右に扉が存在した。
とりあえず右側の部屋を開けてみるとそこには何もない部屋が広がっていた。
どうやら空き部屋のようであり、八畳ほどの板張りの部屋だった。入り口の反対側には窓が存在しているが真っ暗でもはや窓の役割は果たしていなかった。
俺は振り返り、残った部屋を開いた。
丸いドアノブをひねりドアを引くとそこは他の部屋とは違った光景が広がっていた。
絨毯の上に置かれたガラスの机。セミダブルほどの大きさのベット。子供が使うような勉強机。壁に貼られた下手くそな世界地図。そして光が差すはずのない窓に貼られた落書きのような風景画。
ここだけ他の部屋とは違うほど人が生活していたと感じられる部屋だった。
だがなんとも言えないぐちゃぐちゃした感じだ。まるで子供が作ったおままごとの部屋だ。
俺は今までないほどの恐怖を感じ後ずさりした。とにかくこの部屋は気持ちが悪かった。一種の執着すら感じる部屋だった。
荒くなった息を深呼吸して整え、俺は部屋へと足を踏み入れた。部屋を見渡しもう一度よく観察をすると所々人が使ったであろう跡があった。
僅かな布団のずれ。勉強机の椅子が斜めになっている。絨毯が少しずれている。そんな小さな違和感だが誰かがいた痕跡が生活感を醸し出している。
ただ埃の溜まり方からここに人が来たのは恐らく相当昔なのだろうと推測できる。
「誰の家なんだ?なんでこんなところ…」
そうつぶやいた時にふとベットが目に入り、なんだかマットレスがずれていることに気が付いた。
本来であればベットの下には少しやらしい大人な本があるというのが通例だが、ここにはそんなものはないだろう。俺は恐る恐るマットレスの下に手を突っ込み何かないかと探してみると指先に何かが当たる感触があった。
もしや本当に?と思いマットレスの下から引きづりだすと大人の女性が移っているような本ではなく、少し擦れた本だった。
しかし本の表紙には日本語で『日記 加藤ケンイチ』と書かれていた。
「おいおい、ここって俺と同じような日本人がいたのかよ」
建物の作りからしてそうではないかと思ったがこうして目の前に日本語を見ると鳥肌が立つ。
そして俺は日記帳を開いてみた。
「えっと…『この世界に来て何日経ったか分からないけど、今日からこの日記を書いていくことにする。僕の名前は加藤ケンイチ。日本人です。正確に言うと元日本人です。ある日この世界に転生していました。この世界に転生して少なくとも十年以上経っているのは間違いないけれど、その間にあったことやこれからの活動をかいていこうと思う。』」
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