第16話 浮遊感。異世界感。昔懐かしい
「うわぁぁぁあああ!!!!!!!!!!!!」
本棚の謎を解いて落とし穴に落とされ絶叫をあげ既に五秒経っていた。
何メートル落ちたのかなんて全く計算できないがこのままでは自分は死んでしまうんだろうなという事が分かるぐらいの高さを落ちていることは分かった。
なんとかしようと手足をバタバタさせるがただ空を切るだけで何の解決にもなっていない。しかし現状俺ができる事は他になく無意味と理解しながらもただジタバタと手足を動かし続けた。
そんな悪あがきをしながら下を見る。すると未だ底は見えず、俺にはさらなる恐怖が襲い掛かってきた。下を見ていても恐怖が増幅するだけだと察して落ちてきた方向を見る。
すると上から何かが同じように降ってきているのが見え、俺は目を凝らした。
俺が落下する速度よりも速く落下してくるその物体はぐんぐんと俺との距離を縮めてきた。次第に近づいてくる物体の正体は先ほど俺が手を取り損ねたスーであった。
真っ直ぐと頭から急降下してくるスーは俺へと手が届く距離となると俺の首根っこをひっつかんだ。一瞬苦しくなったがその後手は離され、俺の頭と足を支える形で抱きかかえられた。
俗にいうお姫様抱っこだ。
(何このイケメン!)
スーは俺をお姫様よろしく両腕で抱えると頭と足の向きを逆に変えそのまま壁の方へとじりじりと寄っていく。俺はスーの石の体にしがみつき迫る壁を横目に見る。
そしてスーは壁までの距離が十分に近づくとそのまま足を前へと突き出した。するとスーの体は逆方向へと押し出されたと。そしてその勢いのまま反対側の壁に近づくと同じように蹴り、それを何回も繰り返し始めた。
次第に壁へと到達するスピードが速くなり、それに反比例するように底へ向かう速度はどんどんと遅くなっていった。
そうして壁から壁への移動がほぼ真横になった時にようやく俺は一息つくことができた。
スーに抱えながら先ほどまで向かっていた方向を確認する。やはりそこは見えず、一面に闇が広がっているだけであった。
俺はスーに下にゆっくり降りることはできるかと聞くとスーは頷いてゆっくりと下へと降りていってくれた。
上を見上げるとはるか彼方に蠟燭の光より小さな光がわずかに見えていた。しかし下に落ちるにつれて灯りはより小さく夜空に浮かぶ星のようになってしまった。
そうして何分もゆっくりと左右を移動しながら加工している状態が続いているといきなりスーが真っ直ぐと下へ落ち始めた。
「うわぁ!?」
急に俺の体を包む浮遊感に驚いて声をあげ、目を固くつむりスーへと抱き着きついた。
だがそんな俺の情けない行動とは裏腹にその浮遊感は一瞬で終わり、安定した感覚が訪れた。
うっすらと目を開けると辺りは暗くよく見えないがどうやら最下層についたようだ。そして完全に目を開けスーを見ると黙って俺の顔を見ていた。
「…ありがと」
はたから見たらゴーレムにお姫様抱っこをされながら情けない姿をさらしているおっさんといった感じなのだろう。いや、この世界では若い青年の姿になっているからおっさんではないのか。
少し恥ずかしさを感じながらスーから降りると左腕に付いているスラ君を確認する。相変わらずプルプルと震えていてつぶれた様子もなく安心した。
「しかしどうしたもんかな…」
少なくともこのままここにいるのはまずいだろう。なんとかして上へあがらなければならない。
だがここにいるのはスラ君とゴーレムのスー。そしてこの中で最もやくにたたない俺だけだ。
しかし、正直そこまで焦ってはいない。なぜならここに来るときにイーサンたちがそのうち気づいてなんとかしてくれると思っているからだ。
他人任せではあるが、現状俺が何かできるかと言えば何もできない。ならばここでおとなしくしていればいい。
俺がそんなことを考えているとぼぉっと薄暗く辺りが照らされた。どうやらスーが魔法で辺りを照らしてくれたようだ。
そしてスーが照らしてくれたことにより今自分がいる場所がどういう場所なのかがようやくわかった。
「…壁画か?」
昔見たテレビ番組で紹介していた教会の天井や壁に書かれた壁画のような絵が壁一面にびっしりと描かれていた。
白い羽の生えた人間や黒い羽の生えたヤギ。アヌビスのような生き物。手足の長い人間や小さな髭の生えた人間。様々な色の果実をつけた木。まさにファンタジーといった内容の絵ばかりだ。
しかしよくみるとカイトやアリス、獣人やミノタウロス、オークの姿もあった。
「これってもしかしてこの世界にあるものが書かれているのか?」
なんとなくだがそう感じた。このおびただしい量の絵をだれが書いたかは分からないがまるで分からないが、この絵はこの世界に関わるもので書かれていると感じた。
芸術とか完成といったものがあまりない俺だがそんな俺でも感じる何かがこの絵にはあり、俺は端から端まで食い入るように眺めた。
まるで満天の星空を初めて見た子供の頃のように夢中になって眺めた。
しかし、そんな俺の袖をスーが引っ張り俺の意識をそらしてきた。
「どうした?」
スーに聞くと指をすっと壁の方に向ける。そして指さした先には扉があった。
「ん?」
扉、と言ったのは間違いだった。そこにあったのは引き戸だった。
「…玄関?」
この施設を見つけていくつかの扉を見てきたが他の扉は中世のような装飾とかが凝っている感じだ。だが目の前にある扉は昔の日本の玄関でよくあるタイプだ。
すりガラスで向こう側が見えるような木の枠でできた引き戸だった。どうみても玄関にしか認識できない俺は思わずそうつぶやいた。
俺はその玄関と思しき場所に近づいてみるが、やはり昔ながらの玄関にしか見えない。
「誰か住んでるのか?」
扉をノックしてみるとガシャガシャと音を立ててガラスが鳴る。そしてその音が空洞内に響き渡るが返事は一切帰ってこなかった。
「…お邪魔しまーす」
そういい引き戸を横へ引くとカギはかかっていないようで扉はすんなりと開いた。
そして恐る恐る隙間から扉の先を見るとそこは本当に昔の日本の玄関のようだった。
左側には木でできた靴箱。コンクリでできた土間に上がり框。木でできた廊下に少し急な階段があり、小さいころ遊びに行った友達の家を思い出す。
だが…。
「なんでこの世界にこんなものが?それになんでこんなところに?」
一体ここは何なんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます