第5話 ゴーレムの復活。そして忠誠。そして再建
この男について来ておかしなことを数多く見せられているが、今回のは少しレベルが違った。この男の左腕に付いてまだ一日もたっていないはずだというのにフェンリルやケルピーを従え、さらには今まで気にもかけなかった岩に命を吹き込んだのだ。
「はぁ、全くこの男は何なんだろうね。どう考えても常識が通じないよ」
「スラ君様、このお方はスラ君様の我が君でございますか?」
話しかけてきたのは先ほどこの男が命を吹き込んだ岩、もといゴーレムだ。どうやらこのゴーレムはかつてこの地に栄えた王国で人間の守護や生活を支える役割を担っていた存在らしい。
だがその王国も他の国からの侵攻や兵糧攻めにあったせいで人間はいなくなり、王国は滅んでしまったらしい。そんな滅んでしまった国を守っていたゴーレム達であったが時間の経過により補充されていた魔力が尽きてしまい仲間たちが次々と動かなくなってしまったらしい。
なんとか仲間をこの場所に隠し終わった後動かなくなってしまいあの場所にいたらしい。魔力を補給しようにも当時から王国の筆頭魔法使い十人が魔力を使い切って一体に魔力を充電されていたため復活するのはもう諦めていたらしく、再び魔力を補充され起こされたときは驚いたと言っていた。
しかし目が覚めたのはいいが最後の記憶にある景色とは大きく変わってしまい、今は右も左もわからないようだ。話し方もなんだか堅苦しいし。
話し方が堅苦しいのはこのゴーレムがハイゴーレムと呼ばれる種類で彼らのまとめ役らしい。他にも何体かハイゴーレムがいるらしいがこいつはその中でも一番偉いらしい。
「なんだその変な呼び方は。スライム様にしろ。あたしの主なのは間違いないけどあたしもまだこいつのことはよくわからないんだよ」
「まだ仕えられて日が浅いのですか?」
「いや、向こうが何言っているのかはわかるのにあたしたちの言葉が通じないからコミュニケーションが取れないんだ。だからこっちからの質問に返答がないせいでどうしてこんな変な力があるかわからないんだ」
「左様ですか…」
そういいながらさっきからゴーレムを何体も起こし続ける男を見つめるゴーレム。今まであたしが戦ったことのある人間たちでもこんなバカげた魔力を持つ人間は見たことがない。起きて最初に見た男がこんな人間ならそりゃあ何者かと気になるだろう。さっきから目覚めたゴーレム達へ目もくれず男を眺めている。
「しかしこんだけ魔力を使っても問題がないだなんてどうなっているんだろうねこの男は。普通だったら致命傷になるレベルで魔力を使っても平気そうな顔をしているし」
この世界において魔力というのは血液や体液、酸素と同じように生命活動を維持するために必要なものである。寝たり食べ物を食べて補充したりするのだがそんなこともしないでぶっ続けで魔力をゴーレムの核へ注いでいるのはどう考えても異常だ。あたしが魔力を補充したとしても休憩なしであるなら三体が限界だろう。それくらいこの男は異常なのだ。
「姉さん、主は大丈夫なのかい?」
声をかけてきたのはアリスだ。ゴーレム達を整列させる役目を任せたのだが流石に二十体以上に魔力を注いでくる主が心配のようだ。あたしも「大丈夫だよ」と声をかけると男の魔力を確認したが全く問題がなかった。むしろこの男の魔力の底というのはあたしも測りきることができないのだ。
まさに化け物なのだが、恐らくこの人間は気が付いていない。ごく当たり前に魔力を渡し起こしているのだ。
「スライム殿よ、本当にこの主は人間なのか?我は『神』だといわれても信じるぞ」
「ん?あぁカイトか。あたしも同感だよ」
カイトはやることが無いみたいでひたすらに男を眺めている。しかし見れば見るほどわからなくなっているようだ。
ここまで訳のわからない生物であればもはや『神』として認識した方が楽なのだ。生物として認識する方が難しい。
「ふん、さっすが主にボコボコにされた誇り高いケルピー様は主の強さをよくわかっているな」
「あの時の私は自分の強さを過信していたから負けたのだ。それに一度も主を背に乗せられていないからと言って私にあたらないでくれ」
「はぁ!?あたってませんけどぉ!?ただ単にあたしは事実を伝えただけですぅ!」
「そうだったのか。我も事実を伝えたつもりだったんだけどね」
「ほら二人とも喧嘩しない。ゴーレムさんがびっくりするでしょ?」
この二人は昔から仲が悪いらしくお互いに悪口を言い合っているのだが神獣二匹の喧嘩ははたから見ると災害級の出来事だ。ゴーレムはおろおろと手を広げうろたえていた。
あたしが「二人ともじゃれてるだけだから」ゴーレムは胸をなでおろしていた。まぁもし喧嘩をしようものならこの男に止められるだろうが。
「お、そろそろ終わるかな?下が見えてきたぞ」
男がそう言うのであたしも下を見てみると確かに地面が見えていた。残るところ十体ほどという感じだろうか。あと三十分もあれば終わる数だ。
「しかし合計で百二十体か。まるで軍隊だな」
「え、百二十体ですか?百二十五体ではなく?」
「そうだな。残りの核と今まで復活させた数を合わせるとそうなる」
「そうですか…。であれば数が足りません。恐らくはこの年月により風化して壊れてしまったのか野生の生き物や魔物により壊れたのでしょうね」
少しうつ向き残念そうにつぶやくゴーレム。仲間が死んでしまったのだから悲しいものなのだろう。ずっと一人で生きてきたあたしには少しも理解できない感情だ。
ゴーレムは顔をゴンゴンとはたくと顔を振り「他の者たちと話してきます」といい、整列している仲間の元へ駆けて行った。
今自分ができることを考えての行動なのだろう。何も言わず見送ると主の作業へ目を向ける。どうやらゴーレムの核へ魔力を補充するときに復元能力があるらしく、風化したり欠損した部分を治すらしい。それに費やす魔力量が馬鹿みたいに多いため少し時間がかかるのだろう。
「うーん、もう少し早く治らないのかな?このボタンに触れていると直るみたいだけどさすがにもう疲れたしな。もう少し力を込めてボタンを押したらダメなのかな?」
男がそんなバカみたいなことを言い始めたのであたしも話が通じないというのに「そんなわけあるか」と返してしまった。
しかし男がぐっと手に力を入れると修復速度が上がった。恐らく無自覚のうちに流す魔力量を増やしたのだろう、今までの倍のスピードでゴーレムは直っていく。
「でたらめかよ…」
大きく驚くことは無くなったがそれでも呆れてしまう。もう好きにやっていってほしい。
そうして見守っていると最後の一体になった。男が核に魔力を流すとみるみる直り、ほぼ一瞬で治してしまった。
戻ってきたゴーレムがその光景を見てない口を開けて驚いているのが分かった。まさに唖然茫然と言った感じなのだろう。この反応が当たり前に感じるぐらいには自分も鍛えられた。体を伸ばしてゴーレムの肩をポンポンと叩き「慣れるよ」と言っておいた。
「お、スラ君終わったよー。って…八ハーン、なるほどね」
あたしが肩を叩いている姿を見て何かを感じたように顎へ手を当て始めた。
「スラ君も男の子だねぇ。ゴーレムにロマンを感じちゃったのか?」
「あたしは女だ!」
あたしの言葉は通じないため体を大きく振って否定するが男はうんうんと頷くだけだった。恐らくは一ミリも理解していないなこの男は。
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全てのゴーレムを起動するのにそれなりにかかってしまっていて日はもう高くなっていた。恐らくお昼ぐらいだろう。
「うわ、すごいな…」
目の前に綺麗に整列をして跪いているゴーレム達。その数合計百二十体。ちょっとした軍隊の整列シーンのようでなんだか委縮する。
綺麗に整列している先頭には一番最初に助けたゴーレムがおり、その後ろに少し離れて十九体が整列しさらに少し離れたところに二十体の列が五列並んでいる。
「えっと、とりあえずみんな普通に立ち上がってくれないかな?」
そういうとゴーレム達は一斉に立ち上がったのだがそのまま動かずにこちらを見てくる。何を考えて見つめているのかが理解できないが恐らくは俺が何かを言うのを待っているのだろう。
「えっと、元に戻ってよかったね?みんなで協力して健康に過ごすんだよ?」
何を言っていいかわからないからとりあえず差し当たりない事を自分の中では言えたつもりだ。しかしゴーレム達はまだこちらを見てきた。
逃げるように最初に助けたゴーレムを見るが他のゴーレム達と同じように熱い視線を俺に向けてくる。俺に何をしろというのだ。
それに何よりもこの人数を面倒みきれる気がしないというのが本音だ。コミュニケーション取れない生き物をどうやってまとめろと言うのだろう。
「ん?そうか俺が見なくても他のやつに任せればいいのか」
俺は目の前にいる一番最初に助けたゴーレムの傍によると肩をポンっと叩いた。
「よし、今日からお前がこいつらのリーダーだ!俺が出す指示をこいつらに伝えていってくれ!そしてリーダーになるから名前を付けてやろう。お前は『イーサン』だ!」
全て押し付けることにした。正直この世界に来たばかりの俺にはここでどうやって生きていけばいいかも分からないのだ。俺のお願いをいくつか聞いてもらいながら後の責任はこいつにおわせよう。ちなみにイーサンという名前は麻雀パイのイーピンから名前を取った。
イーサンは無言で頷くと胸に手を当て何かを言っているように感じた。まぁ雰囲気だけなんだけど。
「そうだなぁ、なら最初に食料と家を作ってほしいかなー。場所はこれから連れて行って説明するよ」
こうして俺は無事に労働力を手に入れたのだった。胸についている玉をひたすらに押す作業をし続けたのだから少しぐらい俺のことを助けてくれても罰は当たらないはずだ。
「……」
スラ君がやれやれといった感じで首を振っている気がする。ちょっとぐらいはいいじゃないか。この世界に慣れていないのだから助けてもらっても。
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