第4話 人工物との遭遇。オーパーツに感じる魅力。

「怖かった…」




人間という生き物は自分のスキルを過信する節がある。まさに今の俺がその過信してしまった結果であろう。乗馬経験をしたことがあるのと一人で乗馬することができるのは大きな差だ。




よくよく考えてみればいつも近くに飼育員さんがいて俺のサポートや危なくないように見ていてくれたのを思い出す。俺に乗馬スキルなんて物はないことが分かった。ただの普通の一般人だ。




異世界転生だったり異世界に行く話だと大体何でもできるようなスキルが備わっているものだと思うのだが、実際俺には特殊な能力が開花することはないみたいだ。




なんとか気合でしがみついて対岸まで来た俺の体はプルプルして対岸につくなり馬から落ちた。文字通り落馬である。




そして今は這いずり水辺へきて恐怖でカラカラになった喉を潤すと水面を見つめていた。なぜ見つめているかというとなんと俺は服装だけではなく顔まで変わっていたことに気づいたのだ。




自分の記憶にある顔はシワが増えてきて目の下に隈を付けている『ザ・中年』といった容姿だったのだが、水面に映る自分の顔はテレビに映っているイケメンみたいになっていた。




アジア人顔から離れた綺麗に通った鼻筋、少し茶色がかった髪、目も大きく元の原型なんてまるでなかった。嬉しくはあるがなんだか落ち着かないし、愛着のあった自分の顔が変わってしまったことにショックを受けた。




生まれてから今まで鏡の前で自分の顔の変化を毎日見てきたし、ナルシストではないが見慣れて当たり前にあった顔が俺は少し好きだった




「ぶるぅ」




そんな音と共に俺の体は少しの衝撃を受けた。衝撃を受けた理由を確認すると先ほど俺を乗せてくれたと思われる馬が俺を大きな目で見つめていた。




なんだか俺の事を心配してくれているようで嬉しい。スラ君は相変わらず俺の腕章と化しているし、アリスは『ハッハッハ!』と嬉しそうに尻尾を振っている。というかアリスはどうやってここまで来たのだろう。走ってきたのか?




俺は馬の顔を撫でて「大丈夫だよ、ありがとう」と伝えると馬は満足したかのように顔をこすりつけてきた。馬は割と賢い生き物なので俺の言葉が分かったのかな?と考え顔がほころぶ。




「しかしこれからどうするか」




水は見つけたし、ここを拠点とすることにしたいが今の俺にはなにも持ち物がないのだ。衣食住の何一つ満たせていないのが現状である。そうなるともう何から手を付けていいかが分からない。




スラ君やアリスを撫でながら考え込むが、そうしている間にも時間はどんどんと過ぎていく。もうこれ以上悩んでいても仕方がないと踏ん切りをつけ食料の調達から手を付けることにした。




食べ物と言っても俺が狙うのは肉ではなく木の実だ。アリスがいることできっと肉を取ることはできるだろうが俺は残念ながら捌くことができないのだ。




現代社会を生きていた俺にとって肉や魚を捌くなんてことはやったことのない事であるし、もしやったとしてもズタズタにしてしまう自信がある。そんな命に対して申し訳ない事はなるべくしたくないので肉や魚は諦める。いや、栄養バランスが悪いのでいつかは何とかするつもりだ。いつかは。




というわけで比較的難易度低めで今後定期的な食糧確保のためにも木の実を付ける木を探すことにした。




迷わないように何か目印をつけながら歩こうと思ったら馬が目の前でしゃがんだ。どうやら乗れと言っているようだ。




「………」




嬉しくはあるがさっきものすごく怖い思いをしたから正直勘弁してもらいたい。だけどそんな俺の気持ちなんて伝わっていないようで馬は俺の事をじっと見つめてくる。ついに観念した俺は馬へまたがった。ゆっくりと立ち上がり視界が高くなる。




「ゆ、ゆっくりな?怖いからさ」




「わんっ!」




アリスがなんだか不満そうな声をあげている。何に対して不満があるかわからないがとりあえず刺激して急に走らせたりしないようにしてもらいたい。




しかしこっちの心配とは裏腹に今回はゆっくりとした速度で歩いた。鞍も何もないため正直振動が辛いがそれでも森の散策は簡単になったし正直助かる。




「なんとなくついて来てるから乗っちゃってるけど、仲間になったってことでいいのかな?」




最初はなんだかアリス達とギスギスしていたが今は問題ないみたいだし、せっかくなら俺もこのままついて来てもらえるととても助かる。この広い森を歩き続けるとなると流石に辛いし、道も整備されていないから歩くと足が痛くなる。




「えーと、そうだな、カイトなんて名前はどうかな?」




どうやらこの馬は雄みたいだし、昔やっていた対戦ゲームに出ていたキャラクターの名前を付けさせてもらおう。なんとなくかっこいいし。




「ふんっ!」




大きく鼻息を出して返事をするカイト。正直どういった感情なのか分からないから勝手に喜んでいると解釈することにした。




カイトに揺られて長時間の捜索活動が、なんて考えていたが全く時間がかからずに見つかった。木の実は湖畔にあったのだ。勝手にそれなりの時間がかかるなんて思ったけど杞憂だった。




木の実は赤い果実でなんとなくリンゴみたいだった。というかリンゴだった。しかもかなり甘くシャクシャクとした食感がとてもいい。




りんごの木自体もそれなりに数多く生えているため今後空腹にはならないだろう。まぁリンゴばかりでは正直辛いから他の食べ物も探すけど。




「ん?なんだあれ」




リンゴをかじりながらリンゴの木を数えていると森の奥の方で何かがキラッと光ったのが見えた。もしかしたら人の痕跡であったり何かしらいいものがあるのではないかと期待して近づいたが、その正体は何とも言えないものだった。




人の形をした石像だった。キラッと光ったものはどうやら胸に埋め込まれている紫色の玉だったようだ。ところどころ欠損しているし苔などで汚れて綺麗な状態ではないがなんとなく悲しんでいるように思えた。




昔ごみを捨てに行った時に人形が捨てられていて同じような気持ちになったのを思い出す。それにどう見ても人工物であることから誰か持ち主がいたのかもしれない。




「でもこれでこの世界に人がいることが分かったな。ならいつか見つけて交流できるか試してみよう」




皆が友好的とは限らないし、出会ってすぐに『盗賊でしたー。お命頂戴ー』なんてことになったら怖い。それに俺にはすでに頼もしい仲間がいるし、彼らを受け入れてもらえるかが分からない。




「けどこんな物があるだなんて異世界感が増したな」




少なくとも俺が生きていた世界でないことはスラ君とカイトによってぶち壊されているがこういうオーパーツ的なものを見つけるとテンションが上がるのが男の子というものだ。




俺は石像の胸に取り付けられている紫色の玉へ手を伸ばし触れてみる。つるつるとしていてガラス玉みたいだ。色合いのせいで魔術に使われる禍々しい物みたいでなんとなく怖い。




触れてしばらくして俺はあることに気が付いた。さっきまでひび割れていた石像の足が綺麗に直っているのだ。




「なんだ?見間違いだったのか?」




足をよくよく見てみるがやはり全部綺麗に直っていた。それどころかよく見ると石像の身体がどんどん直っていることに気が付いた。欠けていた指やヒビ割がどんどんと直っていき、そうしてうつ向いていた顔が持ち上がり俺をとらえた。正確に言えば目はないのだが俺を見据えているのが分かった。




「わー!」




子供みたいな悲鳴をあげながら俺はアリスに抱き着いた。アリスは『なんだこいつ』みたいな顔で石像ではなく俺を見ている気がする。




だけども映画とかでよく石像が動くシーンがあるが実際石が人間の常識を超えて動くとすごくホラーだった。しかもさっきまで悲しんでいるように見えていたのに急に襲い掛かろうとしているように見えてくるから不思議なものだ。




しかしそんな恐怖とは違い石像は俺に対して跪いてきたのだ。まるで俺が王様であるかのように片膝をつき胸に手を当て頭を下げている。




「な、なんだお前は!こっちにはアリスとカイトがいるんだぞ!」




仲間を当てにするだなんてなんとも小物感がすごいが構うものか。俺は前世とは違って今回は命を大事にして長生きしたいのだ。




しかし俺の言葉に反応せずひたすらに跪いている石像。どうやら敵意はないように感じる。




「立ってこっちに来てくれないか?」




すると石像は立ち上がり俺のすぐそばに来た。どうやらこちらの言っていることは伝わっているみたいだ。




俺はアリスから離れて石像を一周して観察してみた。体のすべてが石でできてはいるのだが、関節が曲がるはずではない作りをしているのに曲がっていた。曲がるはずのないつくりというのは関節がない作りとなっているのだ。




普通に考えればふくらはぎ部分と太もものパーツで別れて作り、膝部分の関節を付けることで曲がるのだがこの石像にそれはない。あるのかもしれないが少なくとも俺が見つけられる範囲にはない。




言ってしまえば石でできた人間みたいな作りになっているのだ。ただ目やその他器官はついておらず、胸についている紫色の玉だけが異様だった




「よくできてるなー。他にはないのかな?」




観察をしていてなんとなくそんな感想が出てきた。もしほかにも同じような石像があれば俺の生活を助けてくれるのではないかと考えたからだ。




意志は通じるし、人間と同じ姿であるからもしあれば便利だと考えた。




すると俺の手を石像が握ってきた。触られた時はひんやりとしていてビックリしたが、冷静に考えれば石でできているのだから冷たい物だろう。




石像はどこかへと案内するかのように握った手を引っ張り始めた。姪っ子が欲しいおもちゃや何か見せたいときによくこうやって引っ張て来たのを思い出す。俺は抵抗せず石像についていくことにした。きっと何か見せたいものがあるのだろうと感じたからだ。




しばらくして木の茂みに囲まれた異様な場所へと案内された。何かそこに隠してあるといわんばかりに茂みが丸く植えられている場所だ。きっとこの茂みの中になにか見せたいものがあるのだと察した俺は茂みをかき分け中へ入っていった。




茂みの壁を超えるとそこはかなり開けた場所になっていたが、そんなことよりも驚いたのは目の前に積まれている大きな岩だ。




だが岩をよく見るといくつもの紫の玉がついているではないか。俺はもう一度岩をよく見ると紫の玉がついている岩は石像だった。




そう目の前にあったのは岩ではなく大量のゴーレムだったのだ。一つ一つが人間の形をしているのでなんとなく死体が積み重なっているようで気持ちが悪い。




「な、なんだこりゃ!?」




ここには昔何かあったのだろうか。そんなことを考えながらゴーレムの山を見ていると再びゴーレムが俺の手を握ってきた。




そして胸についている玉へ触れさせるとゴーレムの山を指さした。どうやらほかのゴーレムも同じように触ってほしいようだ。




「これ全部か…」




ざっと見ただけでも三十体は超えている。しかも下から無造作に触れるわけにはいかなそうだし少し考えながら触っていかないといけなさそうだ。




俺は助けを求めるようにアリスとカイトを見るが二人ともポカンと口を開いてゴーレムの山を眺めていた。そりゃあ俺も同じようにポカンと口を開けて立ち尽くしているだけがいいのだがゴーレムに手をがっしりと握られている。




「はぁ、やってみるか…」




うじうじしていても終わらないので俺は玉に触る作業を始めることにした。

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